学校からそのまま理人の家へ。
鍵を開けて入って、コーヒーをセットしてメール。
キュインキュインという音が止んでちょっとすると理人が家の方に顔を出してきた。
「おかえり」
「た、ただいまっ」
学校でエロい話ばっか黒田としててどうにも思考がそっちにばっかりいってしまう。
「こ、こ、コーヒー」
「ああ。サンキュ。…桜?どうした?顔赤いけど…。昨日の雨で熱か?」
理人が桜の顔を覗き込んで額に触れれてきたのに心臓はさらに跳ね上がる。
「あ!ちがうっ!全然熱なんかねぇから大丈夫っ!俺、風邪ひいたことねぇし!」
「…そりゃすげぇな」
くくっと理人が笑っている。
そう、いつも理人は笑っているんだ。
その顔に桜も嬉しくなって笑ってしまう。
するとコーヒーを受け取った理人が背の低い桜に合わせて屈むと顔を斜めにして軽く唇を合わせてきた。
「り、り、り、…理、人っ」
「ん?なんだ?」
なんだ?って、だって今、キス。
「…可愛いから。…あ、桜、買い物行く?」
「い、行くっ!…理人、何食べたい?」
「………」
じっと理人が桜を見て、そして何でもいいよ、と苦笑した。
「食わせてもらうのに我儘いわねぇよ。って、ハンバーグん時は言ったけど、うまいもの食えるだけでありがたいから。ほんと桜の作るの美味いんだよな…」
「あ、それきっと理人のお祖母ちゃんのせいじゃない?ウチの母親理人のお祖母ちゃんに料理教えて貰ったらしいよ?」
「は?…そうなのか?…っと戻んないと!あとでその話聞かせろ」
「うん。お仕事頑張ってね」
「…ああ」
じゃあと理人が白衣を翻して診察室に戻って行くのを見送った。
ぱたんと閉まったドアにはぁ、と桜は溜息を吐き出す。
普通にキスって!どうなの?
いや!嬉しいけど。
「…心臓うるせぇ…」
キスでこんなに心臓はうるさいし、動揺しまくりなのに、えっちになったらどうなるんだ?
「…死ぬかも」
心臓がきっと走りすぎな事になりそうだ。
買い物を済ませてから理人の部屋にあるエプロンを手にして身につけるけど、この色どうにかしてよ、って毎回思う。
わざと理人がこの色にしてんのも分かってるんだけど。
どうせ見るのは理人だけだからいいけど!
桜はついでに理人の部屋で目に付いた取り込んだだけの洗濯物も畳んでおく。
俺って健気!
そう自分に酔いながら階段を下りて晩御飯の下準備を始めた。
嫌いな歯医者の音なのに、今は全然。
いや多分こっちで聞いてる分には、だ。もし自分があの診察台に乗ってアレを向けられたらやっぱり泣き叫んでしまうかも。
考えてみてぞっとする。
「やだやだ」
…というかなんでこんなにキライなんだろ?
母親にも言われたけど桜は歯医者に行った事がなかったのに。
虫歯もなかったし、学校の検診で引っかかった事もなかった。
何故か知らないけど小さい頃から歯医者が恐怖でしかなかったんだ。
「?」
自分でも首を捻る。
なんか引っかかってる気がするけど。
ま、いいや、と考えるのをやめて料理に取り掛かった。
理人が近くにいなければただ顔がにやけるだけなのに、理人が近くにくると心臓が暴れだしてダメになる。
仕事を終わって戻ってきた理人を見たらもうドキドキして落ち着いていられない。
「俺、帰るねっ」
「え?もう?」
いつもぐだぐだとなんだかんだ言って長居しようとする桜が帰ると言ったら理人が目を丸くした。
「だって俺、死にそう」
「は?」
「心臓壊れそうなんだもんっ」
きっと顔が真っ赤になってると思うけど、桜がそう言うと理人は一瞬きょとんとしてそして盛大にふき出した。
「…壊れそう…って…」
口を押さえながら笑う理人を見て、あの唇が…と思わずキスを思い出せばも一回してくんねぇかな?とも思ってしまう。
ドキドキしすぎで帰る、と言ったけど、やっぱり一緒にいたいのもいたいんだ。
でもマジで心臓がうるさい。
「送ってく。明日は?プール行く?」
「行く!」
泳げるようにはなりたいのでそこは頷く。
「了解。じゃ適当な時間に来てろ」
「うん」
玄関に向かって桜が先に靴を履くけど、キスはしてくれなさそうな雰囲気だ…。
…でもやっぱしたい。
「理人」
「うん?」
理人が玄関に座って靴紐を結んでいたのでさすがに桜よりも目線が下にある。
チャンス!
桜はがしっと顔を上げた理人の頬を手で挟んで目をぎゅっと瞑り、ぶつかるようにキスした。
「よし!」
「……よしってなんだ?」
ぶぶっと理人が笑っている。
「色気ねぇキスだな?…桜」
色気?
「桜」
立ち上がった理人が桜の顎をくいと持ち上げ顔を近づけてくる。
う~わ~…。
理人の伏せた睫毛が見える。
ああ、やっぱ好き、だぁ。
桜の力技と違う理人のキスに桜は身体がまた蕩けそうになった。
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