あれが桜だったなんて…。
立ち止まった足を進めながら隣を歩く可愛い歳の離れた恋人の顔をちらと覗いた。
さっきの玄関先でのキスにも色気がない、なんて言ったけど、やる事が可愛すぎる。
恋愛に慣れてなくて、それでも精一杯伝えてくるのに、伝わってくるのに翻弄されてしまう。
…いい年して。
もうすぐ30になるのに。同級生は子供もいるやつもいるのに高校生相手に浮かれてるなんてさすがにどうだ?と自分でも呆れてしまうが。
しかもいくら可愛くてもヤローなのに!
それでもやっぱり可愛いとしか思えなくて溜息が漏れてしまう。
しかも今の話で桜が深く自分に関わっていたことがさらに拍車をかけてしまいそうだ、とも思ってしまう。
抑えが効くかな?と思わず疑問も浮かんでしまう。
朝、目覚めた時に背中にぺたんとくっ付いた桜にぐわっと衝動がこみ上げてきてそれは必死に我慢したけれど。
好きってどんな?なんて聞いて来るくらい子供なんだ。
その子供に翻弄されてるんだから。
……果たしてどれ位自分は我慢できるのか。
一緒のベッドに入れたのは間違いだったと思っても今更遅い。
そんな気なんて全然始めはなかったのに、今は自分を取り繕うのが大変だ。
なんにもなくてもそれだったのに、あの時の自分の進路を決めるきっかけになった女の子が桜と知ったらどうにも思いが溢れそうになってきてしまう。
自分が歯科医になるのを決めさせたのが桜なんだ。
そして桜にあんなに恐怖を植えつけたのが自分で…。
あの小さい子の怖いをなくしてやりたい、と思った気持ちは少し叶っているのだろうか?
おまけに料理は理人の祖母から桜のお母さんに?そして泣いた姿を見せたのは理人にだけ?
どれだけ絡まっているんだ、とも思ってしまう。
運命とか縁なんてそんなもの、と思っていたが、ここまで絡んでくると考えずにいられなくなる。
…自分が?
滑稽だ。
でも桜は本当に真っ直ぐ気持ちをぶつけてくのでそれにどうしても理人も反応してしまう。
まったく…。
ぽんと桜の頭に手を乗せると桜がぱっと理人を見上げ、嬉しそうに頬まで桜色にしてにぱっと笑う。
……だめだ。やっぱ可愛いにしか見えない。
「……困ったヤツだな」
「…?」
理人から苦笑が出ると桜が頭を傾げた。
「なにが?」
「いや、なんでもねぇよ」
不思議そうな顔。
本音を言えば帰るという桜を帰したくはないんだから困ったものだ。
それはさすがに言えないけれど。
まだ高校生なんだから。
高校生、高校生、と自分に言い聞かせて歯止めを効かせておかないと。
イケナイ大人だ。
はぁ、と溜息が漏れてしまう。
早く大人になってくれないかな…。
いや、あのブランコにいた女の子と比べれば随分と育ったが。
……13歳差はイタイだろ。
それでももう止められそうにないんだからホント自分はどうかしてる。
「理人」
「うん?」
桜が顔を俯けながら呼んできた。
「好きっ」
………だからどうして煽ってくるかな?
自分で心臓が壊れそうだから帰るって言っておいてこれか?
「……あのな…お前はそんなに俺を試したいのか?」
「何が?」
きょとんと桜は頬を紅潮させたまま理人を見上げる。
「…理人はちげぇの…?」
好きイコール肉欲と繋がっていない桜は純粋だ。
その純さに理人は内心自分が汚い大人ながらも応えたくなってしまう。
「……違くない。俺も桜が好きだ」
そう返してやれば桜ははにかんで笑顔を見せる。
そんな桜を蹂躙したいなんて理人が思っているなど桜は思いもよらないのだろう。
早く大人になってほしいのもやまやまだが、これはこれで穢したくないとも思ってしまう。
年のいったオトナとしては複雑だ。
このまま綺麗でいてほしいと思うし、欲しいとも思ってしまうんだから。
「う~~~~~ん……」
「どしたの?」
「……なんでもねぇよ」
桜の家までほんの5分だ。
「じゃ、明日な」
桜の家まで着いてしまって理人がそう言ったが桜はなかなか家に入ろうとしない。
「やっぱ…もっといればよかった…」
自分で帰ると言った事を後悔してるのか。
「明日はゆっくりいられるだろ」
オトナの余裕を見せてやらないとこのままもう一度桜をお持ち帰りしてしまいそうだ。
「…うん。明日!」
ぱっと満面の笑みを見せられればやっぱり自分が汚く思えてしまう。
……困ったものだ。
テーマ : 自作BL小説
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