好きって言って好きって返されるのに顔は緩んでしまう。
「桜ちゃん。ごはん………」
桜を呼びに来た撫子がガチャッとドアを開けてそう言うと桜の顔を嫌そうな顔で眺める。
「なんだよ!?」
「……キモ」
「キモ……って、テメ…」
言い返そうとしても自分でも顔がにやけていたのは分かっているのでどうしてもばつが悪い。
「…ふぅん…。………いいな……」
桜の顔だけで理人の事を思ってたのが撫子にはバレバレだったらしい。
桜よりも5センチ身長の低い撫子の頭をぐりと撫でながら桜は階下に撫子と一緒に階段を下りる。
「……やらねぇよ?」
「いらない。桜ちゃんを好きな人なんていらないもん。桜ちゃんを知らない、ううん…私だけ好きって人みつけるもん」
「そんなのいっぱいいるだろ。黒田だってぜってぇ俺より撫子のほうが可愛いって言うに決まってるし」
「…そうかな…?黒田くんはやっぱり桜ちゃん大事だと思うけど?」
「いや。ダチとしてならな。黒田はどうしたってダチでしかねぇもん。アイツもそう言ってるし」
「…そう、なの?桜ちゃんとずっと一緒にいるのに…。……黒田くん…いいかも…」
「は!?ダメダメ!!!」
「なんで?桜ちゃんとずっといて桜ちゃんに免疫あるし、それで友達だけっていうなら…」
「お前簡単すぎだろっ!」
「だって彼氏出来たって桜ちゃんに取られるのやだもん!」
「誰も取らねぇよっ」
「取るもん!」
「取らねぇ!」
「あんた達何の取り合い?」
階段の下で取る取らないを騒いでたら母親が顔を出してきた。
「え~~~!私に彼氏出来たら絶対桜ちゃんに取られると思って!」
「取んねぇよ!いるかそんなもん!一人だけでいい!」
「そんな事言ったって絶対桜ちゃん見たら桜ちゃんの方可愛いから桜ちゃんがいらなくても…」
「きみたち?男の取り合い?」
はぁ~と母親が溜息を吐き出す。
「なぜ、兄と妹なのに男?桜、男が好きなの?」
「んなわけあるか!」
「だって先生は男の人じゃん!」
「理人だけだっつうの!他のヤツなんか好きになるはずあるか!女の子の方がいいに決まってんだろ」
んん…???
はっとして桜は口を押さえたけど絶対遅い!
「先生…?」
母親が眉を顰めた。
「ばっ!…この、撫子っ」
「あ、ごめ~~~ん」
つい撫子と言い合って理人の事まで口にしてしまっていた。
「…とにかくご飯」
はぁい、と桜と撫子は食卓につく。
けど、どうしたって桜は落ち着かない。
まさか理人の事を暴露してしまうなんて。
じろりと撫子を睨んでしまうと撫子は肩を竦める。
「お母さん!だってさ~…桜ちゃんに似合う女の子っていないと思うんだ。絶対。というか、絶対桜ちゃんと並んで歩きたくないよね。女の子は!」
「なんで!」
「なんで?当たり前じゃん!自分より可愛くて、細くてそんな男と一緒いたくないじゃん!彼氏ですなんて恥かしくて言えないよ」
え?そうなの…?恥ずかしい、まで言われちゃう?
桜はちょっとショックを受けてしまう。
「ほんとは桜ちゃんは強いし、ちゃんと男の子なんだけど、見た目がね…これじゃ無理っ」
ちろりと母親も桜を見て、はぁと溜息を吐き出す。
「…まぁ、確かに…」
そこ!納得するのか!?
女心は女にしか分からないらしい…。
桜の胸中が複雑になっていると、で…、と母親が桜を促した。
「で?」
桜と撫子が声を合わせる。
「先生?」
あ、やっぱりそうくるのね…。だよなぁ…。
「理人と…付き合ってる…?になるのかな?」
こうなったら開き直るしかないだろ。
「あんたの独りよがりじゃないの?先生と年離れてるでしょ」
「違います!ちゃんと!…多分、一応…」
好きって言って好きって返してくれるもん!
「先生今いくつ?」
「29。誕生日来たら30。あ、明日理人が診察終わって午後から一緒にプール行ってくる。泳ぎ教えてもらうから。水泳でインターハイ、国体まで出てるんだって!」
先週は家出中だったから話してなかった事だ。
「へぇ」
「デートだ、デート」
「うるせぇ」
撫子がからかうのに桜が憎まれ口をたたく。
母親は複雑そうにしながらもそれ以上何も言わなかった。
いいのかな…?
桜はそそくさとご飯を食べて後片付けをする。
食事当番から抜けている分片付けは桜の仕事だ。
でも考えてみれば普通男子高校生はこんな事しねぇよなぁ…とも思ってしまうけど。
テーマ : 自作BL小説
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