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熱視線 円舞曲~ワルツ~5

 むっとした顔で怜は明羅の身体を綺麗にしたあとソファに明羅と一緒に座っていた。
 「…お前、俺を弄んでるの?」
 「え?…??」
 明羅は身体をくたりとして怜に預けていた。怜の手が明羅の髪を弄っているのが擽ったい。
 「…煽りすぎだって言ってるのに」
 「…えと…?どこ、が…?」
 明羅が首を傾げて眉を寄せればはぁ、と怜が嘆息した。
 動けないほどじゃないけど身体が重い。
 「……意識なし。…俺、踊らされてる感じがする」
 「……どこが…?」
 「いいよ」
 はぁ、と怜が諦めたように息を吐き出した。
 何が?どこがだろう?明羅は分からなくて首を傾げた。
 

 「怜さん、ワルツ聴きたい」
 「ワルツ~?…俺あんま苦手だ。軽やか~に、煌びやか~に、がなぁ…。お前のお母さんのがワルツはいいだろう?」
 「怜さんのが聴きたい!」
 「…曲は?」
 「適当に。何でもいいから何種類か聴かせて?シュトラウス、ショパン、チャイコ、ラヴェル。有名なやつでいいから」
 「……乗り気しねぇなぁ…」
 そう言いながらも怜がピアノに向かう。
 小犬のワルツからだ。
 くすと思わず明羅は笑みが浮かんだ。
 可愛くも弾けるんだ…。また新発見だ。
 くるくると音が遊んでいる。

 続いて華麗なる大円舞曲。
 優雅だっ!軽やかだっ!
 これで苦手!?
 つくづく普通じゃないと思う。
 お母さんのワルツと遜色ないと思うけど…。
 さらっと弾いてコレだもんな…。
 明羅は溜息を吐き出しながらそれを聴いた。
 桐生佐和子はワルツが得意。
 だからこそワルツを!と明羅は拳を握った。
 怜のお父さんに怜の凄さを分からせないと!
 そのためには怜に合ったワルツを作らないと!
 優雅に、典雅に、燕尾服を着た怜さんに合うように。
 そしてちょっと悪戯な感じ…
 イメージが湧いてくる。
 そしてやっぱりドラマティック、は外せない。
 
 「……これで苦手?」
 ラヴェルまで全部弾き終わった所で明羅は声をかけた。
 「ああ。好きじゃない、なぁ…」
 怜が頭を搔いてる。
 「でもワルツ作るから!」
 「え~~…」 
 怜がいやだ、と顔が言ってた。
 「怜さんのお父さんに聞かせてやる」
 「………明羅くん?それ、桐生佐和子に対抗して…?」
 「当然っ!」
 「…………君のお母さん、でしょ…?」
 「だから何!?怜さんの方がすごい!」
 「………シビアな息子だね。お母さん泣くよ?」
 「泣けば?俺はお母さんの演奏は上手いけど普通にしか聴こえないから」
 怜は呆れたように明羅を見た。
 「お前…」
 そして笑い出す。
 「怜さん…」
 隣に座った怜のTシャツを掴んだ。
 手に届く所にいてくれるのが嬉しい。
 身体のだるさだって嬉しい。
 「天才って分からん」
 怜が呟いたのに明羅は首を捻った。
 天才?何の事?



翌日朝ご飯を食べていたらインターホンが鳴った。
 明羅は誰?と怜と顔を合わせると怜が立ち上がった。
 「宗だ」
 明羅に向かって怜が肩を竦ませ、そして門扉を開けて宗を家に入れた。
 「…今日は動けるんだ?」
 宗がにやにやと明羅を見て笑っているのに明羅はつんと顔を背けた。
 「昨日珍しく親父が帰って来て」
 宗がダイニングの椅子を引っ張って怜からちょっと離れて並んで座った。
 「桐生佐和子の息子って知らなかったらしい。すっげ慌ててた」
 「?」
 だからどうしてそれで慌てるのか?
 「そのうちまた接触してくるかも」
 怜が心底嫌そうな顔をして眉を寄せていた。
 「……今度は乗るなよ?…いや、送り迎えすればいいか…」
 「いらない」
 朝食の続きを頬張りながら明羅は言った。
 「…昨日は兄貴が来てるんだと思って。俺か兄貴がいれば寄り付かないだろ」
 「……別にそんなしてくれなくても平気」

 「いや、危ない」
 怜と宗が一緒に答えるのに明羅は眉を上げた。
 「……なんなの?」
 怜と宗が顔を合わせた。
 「兄貴最初から桐生佐和子の息子って知ってたのか?」
 「いや、知らなかった」
 そしてまた明羅を見る。
 「……どう思う?」
 宗が怜に聞いていた。
 「どう、かな…?でも佐和子さんじゃないし。あれが執着してるのは佐和子さんだろ」
 執着~?
 明羅は怜と宗をじとりと見つめた。
 「どうこうする気はないだろうけど…」
 「…うざくなりそうな気はしないでもない」
 二人が頷いているのが分からない。
 「だからなんなの?」
 「………明羅可愛いからな…」
 「綺麗だから」
 「はぁ!?」
 「……………お前にやる気ないけど?」
 剣呑な雰囲気で怜が宗に言った。
 「いらないし。……小悪魔でもあるよな?」
 「……それは否定しない。しないが…なんでそれ…?」
 「ああ?…この間お兄ちゃん取ってごめんね?ってにっこり微笑まれた」
 怜と宗がじとりと明羅を見つめた。
 
 

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