「行ってくる」
「……今日帰ってくんの?」
「え~分かんない。理人が泊まっていいって言ってくれたら泊まる」
プールの準備も万端で、玄関で靴を履いてたら母親がキッチンから顔を出して聞いて来たのに普通に桜は答えた。
「う~~~ん……一応顔は女顔でも身体は男だからなぁ…避妊しろよとは言わなくてもいいだろうし…」
ヒニン?
一瞬頭の中に漢字が浮かばなかった。
「ばっ!!!何っ!言ってっっっ!」
「…なんだ。まだなんだ。何度も泊まってるからてっきりそうかと思ったら。ふぅん…桜じゃ色気ないか…」
「~~~~~~っっっ!!!」
か~~~~っと身体が変に熱くなってくる。
「い、い、行ってくるっ」
バタンと思いっきりドアを閉めて家から走って理人の家に向かった。
着替えおいとけ、って理人が言ってたから自分の理人の家用の着替えも準備してたけど!
でもっ!まさかっ!
そんな事母親に言われるとは思ってもなかった!
何ともいえなくて、もう走って理人の家まで一気に行ってしまった。
がちゃと理人の家の鍵を開けて入るとちょうど理人が診察室に行くところだった。
「おはよう、桜、早いな……どうした?」
顔を真っ赤にして息を切らせていた桜に理人が不思議そうな顔をした。
「な、なんでもないっ!理人今から仕事でしょ?頑張ってね!」
「あ、ああ…」
恥かしくて靴を脱いで慌てて理人の身体を診察室の方に押してやる。
泊まって、一緒のベッドで寝てたけど、全然えっちの事なんか考えもしなかった!
いや、考えたけど、一緒にいて、と自分とが結びついてなかったんだ。
理人の家のリビングのソファに座ってはぁ、と溜息を吐き出す。
今日泊まっていい?って聞いたら…理人は何て答えるんだろう?
キスはしたけど、それ以上、って思う、のかな…?
自分がされる側なんて考えた事もなかったからきっと想像もつかないんだ。
だからってするのなんかもっと想像つかないけど…。
どう、なんだろ…。理人、考えてる、のかな…?
でも色気ないってそういや言われた。
昨日の玄関先でのキスに色気ねぇなって…。
母親にも色気ないって…。
黒田もそれっぽい事いってた…。
色気ってなんだよっ!
そんなのしらねぇしっ!
がしがしと桜は頭を掻き毟った。
「考えない!」
すくっと立ち上がって掃除機でもかけてあげようかな、と動き出す。
理人はご飯もちゃんと食べたらしい。
でも洗い物もきちんとしてあるんだ。
料理は出来ないけどそういう所はちゃんとしてるんだ。部屋だっていつも散らかってるなんて事はない。
洗濯物が置かれている時も診察の合間に慌てて入れて置かれているだけで、そのまま放置って事はないから。
それでなんで料理だけがだめなのかがおかしい。
でもそのおかげで桜がこうしていられるんだから感謝だ。
「朝、どうしたんだ?」
「え?…え、と…」
言った方がいいのか?
診察を終えて軽くお昼を食べ、理人の運転する車に乗ってプールに向かう車の中で理人に聞かれ、昨日の出来音を考える。
「あの、……昨日……その…撫子と…話してる最中に…うちの…母親…に……」
歯切れ悪く桜がしどろもどろに話すのを理人はうん、と促しながら聞いてくれる。
「理人の…事…おもわず、…言っちゃっ、…って……」
「………………はい?」
理人がゆっくり桜の方に視線を向けた。
「…言った…?」
「あっ!だ、だ、ダメ……だ、った…か?俺、なんかと…付き合って、とか…」
やっぱそうじゃない、のかな…。
桜はひくっと肩を竦ませた。
「いや、そこじゃなくて!お母さんに言った!?」
そこじゃなくて、って事はいい、のかな…?
「う、うん……別に言おうと、思ったんじゃないけど…撫子に先生が、って言われて…俺も…つい…」
「…ちょっと待て」
理人はハンドルをぐいと切ると車を路肩に寄せてハザードを点滅させた。
「も一回ちゃんと説明しろ」
理人が桜に向き合って真剣な目をするのに、桜はびくびくしながらもう一度ちゃんと説明した。
年も離れてるし、桜なんかと、と理人は思うんじゃ…。
桜は伺う様に理人を見ながら説明する。
順序立ててそのままあった事を告げればそれを聞いて理人は大きく溜息を吐き出すとハンドルに顔を突っ伏した。
やっぱダメ、だった…のだろうか…?
「理人…ごめ…」
「ん?なんで謝る?謝る事なんてねぇだろ」
「え…そ、そう…?理人…嫌だった、のかと…」
「ばか。んなわけあるか。余計な心配だ」
こつっと桜は頭を叩かれた。
なんだ…嫌じゃない、んだ。付き合ってる、でいいんだ?
へへ、と桜は照れたように笑った。
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