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桜誘う桜守 57

 それにしてもプールはちょっと、いや、かなり困る!と改めてしまった、と桜は後悔した。
 だって、だって、水泳パンツ一つで裸じゃん!
 しかも桜も泳げてれば別にいいのかもしれないけど、なにしろ半分溺れかけ泳法で、教えてもらう時に理人に身体を触られるのが多い。
 その度にドキドキして心臓おかしくなりそうになる!
 そんなよこしまな思い持っているのは桜だけなのか、理人は全然平気そうだ。

 そりゃ恋愛の経験値が理人とじゃ比べるのも間違っている位違っているだろうから仕方ないとは思うけど!
 でも動揺してるのが桜ばっかりのようでちょっと面白くない!
 それに誰にもかれにも色気ないって…。
 そんなんじゃ理人だってえっちなんてきっと考えないのかも。
 今の泳ぎ方を教えてもらっているこの状態なんて本当に先生と生徒だ。
 「桜、足、ほら曲がってきてる。力入れない」
 桜の横に理人が付きっ切りだ。
 今日は最初から桜から離れないでいてくれていた。
 それに申し訳ないなぁ、と思ってしまう。
 
 「あのさ、俺ちょっと休んでるから理人泳いできていいよ?俺にばっかついてたらつまんないでしょ?」
 ある程度泳いだ所で桜は理人に声をかけてプールを上がった。
 「…じゃタオル、頭から被ってろ」
 「ん」
 理人の言葉に頷きプールサイドから理人の泳ぐところを見る。
 やっぱ綺麗だ。

 理人は自分なんかといて楽しいんだろうか、と思ってしまう。
 好きって言ってくれたけど、どこが…?
 色気ねぇって言われ、プール来たって相手になんないし、話だって高校生の桜じゃ相手にならないはず。
 なんだかなぁ…。
 桜は微妙に落ち込んできた。
 料理では役立ってる!
 …とは思うけど、それだけ、な感じがしないでもない。
 でも、小さい時の話で理人と絡んでいた事が桜にとって免罪符のように思える。
 好きでいい、とあの時から理人とは深く関わっていたんだから、と。
 そんなの思い込みでしかないけど。
 ふるふると桜はタオルの下で頭を振った。
 
 プールを終え、買い物をし、ご飯も一緒に食べたけど、その後送っていく、と理人に言われてお泊りはなしか、と桜はガックリする。
 そういえば今日はキスもしてくれない。
 やっぱあんまりそういう気は理人はないのかな、と思えば桜からもしづらい。
 あんまりうだうだと考える方ではないけれど、それでも理人には嫌われたくないのでどうしてもいつもよりも慎重になってしまう。

 それを考えればほんと理人が好きなんだなぁ、と改めて自覚して理人を見てしまう。
 「なんだ?」
 「ううんっ!なんでもないっ」
 かっこいい理人に見惚れてしまいそうになって慌てて桜は首をぶんぶんと横に振って玄関に座って靴を履く。 
 「桜」
 理人に呼ばれて顔を上げたら理人の手が桜の頬にかかり、屈みこんだ理人の顔が目の前にあった。
 そして重なる唇。
 啄ばむように何度も。
 「り、ひと…」
 理人の服に手を伸ばして縋るように手をかけると理人が桜の身体に手を伸ばして立たせ、そして抱きしめてくれた。

 心臓が苦しい。
 でももっと…。
 いいのかな、と思いながら桜は手を伸ばして理人の身体に抱きついた。
 やっぱ……。
 「………好き」
 小さく理人の腕の中で囁いた。
 「俺、全然理人の相手なんねぇかもしんないけど!でも、でも…」
 桜がぱっと顔を上げて理人に訴えるように声をあげた。

 「俺の相手になんねぇ?なんで?」
 「だ、って…理人、はオトナで…俺、ガキなの分かってるし…でも!」
 「何言ってんだよ。バカだな…。ガキだと思ってんならこんな事しねぇだろ」
 そう言ってまた理人がキスしてきた。
 「桜…」
 理人の声が桜の身体に響く。
 好きが溢れてくる。

 「んっ…は…」
 思わず息が漏れたらその隙に理人の舌が桜の口腔に進入してきて桜の舌と絡んでくる。
 どうしたらいいのかなんて桜には分からないけれど、それでも理人が欲しいとたどたどしくそれに応えるように桜も舌を差し出す。
 すると理人の桜の身体に回っていた腕がさらにぎゅっとしまり、そしてキスが濃厚になっていく。
 「あ…っ…」
 身体が熱くなってくる。
 「や、…っ…」
 「…感じた、か…?」
 くすと理人が笑って唇を離し、そしてただ桜を抱きしめてくれたのに桜は恥ずかしいのと力が抜けた所為で理人に体重をあずけた。
 

テーマ : BL小説
ジャンル : 小説・文学

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