濃厚なキスにぽやんとしたまま理人の家を出て一緒に桜の家まで向かう。
たった5分の距離なのに。
別に送ってくれなくてもいいんだけど、やっぱり離れたくもない、とも思ってしまってしまうんだ。
「?」
いつもは玄関先でじゃあ、と理人は帰るんだけど、今日は桜と並んで玄関に立っている。
「どしたの?」
「どうした、ってお前のお母さんに挨拶しなきゃ」
何で?と思った所であ!とバレた事を思い出した。
「あ、あ、挨拶!?」
「そう。ほら、入れ」
くいと理人に背中を押されて桜は家の玄関を開けた。
「た、ただいま~」
「あら、帰ってきたんだ?……って、先生?」
廊下に出てきた母親と理人が顔を合わせたのに桜はこくんと唾を飲み込んだ。
「夜分にすみません。それに連日桜くんお借りして」
「いいえ~それは全然。桜が役立ってるなら構いませんけど……ええと…あの…何か?」
「いえ、ご挨拶を、と思って。……きちんと、桜くんとお付き合いしてます、と」
「え!?」
桜と母親の声が被った。
「り、り、理人っ」
桜は突然の理人の母親に対する挨拶に桜はか~っと顔が真っ赤になった。
「だってお前ばれたって言ったから」
「言ったけど!」
「………びっくりした。嫁に下さいって言われんのかと思った」
母親が溜息を吐き出して言った言葉に今度は恥ずかしいのとは違うものでかっとする。
「嫁はねぇだろっ」
びっくりした顔をして理人を見ていた桜によく似ている母親に突っ込む。
「俺は嫁でもいいけど…。でもさすがに見た目これでもそりゃ無理でしょう」
理人が桜をじっと見て、母親も桜をじっと見る。
「そうよねぇ」
……この二人なんかずれてる。絶対!
「お、お、おかしくない!?」
「おかしいけど…だって撫子言ったみたいに桜に彼女って…どうも考えられない…」
母親の言葉に桜は真っ赤な顔のまま、ふるふると震えた。
「だ、誰がこんな顔と身体に産んだんだよ!俺だって普通に理人みたいなヤローがよかったよ!理人以外だったら俺は普通に女の子が好きだ!」
「うん。ごめんねぇ…可愛く生んじゃって」
ごめんね、って…。
桜はがくんと肩を落とす。
「…俺やっぱ今日理人ん家行く。理人、いこ!」
理人の腕を引っ張った。
「いや」
「いや、じゃない!俺ヤダ!もう今日帰って来ない!」
「今更だから別にいいけど。じゃぁ~~ね。あ、先生、よろしくお願いします」
軽い!軽すぎるっ!
「信じられないっ!」
「あんたが言ったんでしょう」
「今日だけじゃなくてもう帰ってこねぇ!」
「嫁にいったと思ってればいいんでしょ?」
よ、よ、よ……。
「り、理人っ!帰ろっ!」
さらに体温は上昇した気がする。
「え?あ、あ…あ、の…じゃ、すみません…お借りします」
「どうぞ~」
ひらひらと母親に手を振られて桜は真っ赤になって理人の腕をぐいと引っ張って家を出た。
「しんっじられないっ!」
「………なんか…ずいぶん…」
理人も困惑したような声で呟いた。そりゃそうだ。
「散々昨日も撫子と二人で女の子は絶対俺と並んで歩きたくないとか!」
「う~~ん…まぁ、確かに…自分より可愛い男って…考えれば、なぁ」
理人までが桜を見て納得したように頷く。
「俺、男なのに…」
「分かってる。俺は別にお前が男だから、女だからって選んでないし。そもそも可愛いのはまぁ可愛いけど…顔が可愛いからってだけで選んだのでもないしな」
…そういわれればそうだ。
「……なんで…?俺、なんかの、どこ、いい、の…?」
聞きたかった事、だ。
「可愛いから。あ、顔がじゃなくてな?やる事なすこと。治療の時に涙浮べて俺の白衣ぎっちり握ってるのとか。ぶつかるようなキスしてくるとことか。好きって真っ直ぐ言えるとことか…」
そんなとこ…?
「以外に負けず嫌いなとこもかな…泳ぎ、ちゃんと頑張ってるし」
「うん…だって…泳げるように、はなりたい…から」
「そういう真っ直ぐなとこ好きだ。それに家族思いでいい子だ…って思う。可愛くて一所懸命で気が利いて、そんで俺こそ何で俺?年はいってるし…」
そんな風に思ってたんだ…。
「理人はかっけぇもん!俺、理人みたいな男になりたかった」
「…そうか…?」
「うん」
へへと桜は嬉しくなって笑って理人の腕に縋った。
「夜だからもう誰も歩いてねぇし!いいよな?」
理人がくすっと笑いながら桜の髪をくしゃりと撫でた。
理人が笑ってるのが好きだ。
今日はもう一緒にいられないと思ったけど、思わず理人の家に逆戻りする事になってしまった。
「しかし、桜のお母さん豪快だな…」
「…俺も知らなかったよ…」
おまけに避妊する事ないし、まで言われてるなんて理人には到底言えないけど!
テーマ : 自作BL小説
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