はぁ、と桜は溜息ばかり吐き出すようになった。
連日理人には帰ったら?と連呼され、こうなってくると意地でも帰らない、と思ってしまう。
そんなの可愛くない、とも自分でも思うけど。
だっていらないみたいじゃないか。
もう7月に入ってすぐに夏休みがやってくるようになる。
7月……。
「あッ!!!く、黒田っ!」
学校で休み時間にぼうっとしてたら思い出した!
「うん?なんだよ?」
「理人の誕生日だ!」
「ああん?いつ?先生いくつになるんだ?30、だっけ?」
「そう!5日!ど、どうしよう…何あげたらいい?」
「ああ?お前でもあげたら?」
どうでもいいような口調で黒田が答えたのに目が点になった。
「は?」
「一番喜びそうだと思うけど?」
ふわ、と欠伸をしながら黒田が言った。
「首にリボンでも巻いて、はいどうぞってさ」
「な、な、何それ…」
「喜ぶんじゃね?一石二鳥だろ。そうすりゃお前のぐだぐだも解消されるし。ぐだぐだしてるくらいならさっさとやっちまえばいいのに」
や、や……。
「…………でもいらない、って言われたら…」
「いくらなんでもはいどうぞ、って言われたらたらいらねぇっては言わねぇだろ。言われたら付き合う気はねぇ、って事だから別れたら?」
「ヤダ」
黒田が肩を竦めた。
今週のもう金曜日じゃないか!
どうしよう!小遣いもチョコチョコ使ってほとんどない!
やばい!
…夏休みバイトでもしようかな…。
どうせ理人は仕事あるだろうし…。
でも理人の家にいたら理人に会えるけど、バイトしたら会う時間がなくなってしまう。
…じゃなくて、まず誕生日だ!
料理はいつも作ってやってるし…。
桜が出来るものは本当に少ない。
高校生だから金もねぇし!
それでもいつもプール代もちょっとの買い物も理人が一緒だと全部理人が出してくれる。
高校生なんだからいいから、と。
桜は父親もいないし皆よりも小遣いは少なめだ。でも別に余計な物をそんなに欲しいと思った事もないので全然よかったんだけど、でも理人の誕生日は別だ!
でも臨時で小遣い貰って理人にプレゼント、も違う。絶対。
だってそれは桜のお金じゃないから。
やっぱりバイト探そう!
…と決めるのはいいけど、その前にもう目の前の誕生のプレゼントだ!
でもいくら考えても先立つものがなければどうしようもない。
料理豪華なの!と思ったって材料費は理人が出してるし。ケーキ買うんだって違う気がする。
桜にあるのはやっぱ身体だけ?
黒田が言った事を考えて桜は頭を抱えた。
なんかそれしかないように思えてくる。
いや、いや、…。
桜はふるふると頭を振った。
でも初めての好きな人の誕生日なんだから特別にしたい!
…でも…。
いくら考えたってどうしたっていい案は浮かばない。
ずっと上の空で、学校から理人の家に帰ってきて夕飯の準備中も考え事。
はぁ、と溜息ばかりが出てしまう。
がちゃりと理人が帰ってきた合図のドアの開く音に桜が慌ててぱたぱたと廊下に迎えに行く。
「おかえりなさいっ」
「ああ。ただいま、ってのも毎度ながら変だけど」
何しろドア一つだ。
「なぁ、桜…。お前に飯の用意してもらっておいて言うのもなんだけど、家に帰れ」
「やだ!帰らない!……でも…日曜日に帰る、よ…」
だって金曜日は理人の誕生日だから。そこは一緒にいたいから。
「……うん。そうしろ」
理人は桜の頭をぐりと撫でた。
なんで毎日理人は帰れ帰れって言うのかな…。
「理人……俺、いない方…いい、の?」
「ばか。ちげぇよ。むしろ反対だ」
理人はそう言って桜の頭をぽんと軽く叩いて白衣を着替える為に二階に上がっていく。
反対…?
いてほしい、って事?
なのになんで帰れって言うんだろ…?
でもいらないんじゃないならいいや。
きっと理人は桜が高校生だから、とか色々考えてるんだ。
…大人だから。
桜だって理人に対する気持ちが決して軽いとは自分でだって思わない。
だってこんなにいっつも考えるのは理人の事ばっかりだ。
けれども高校生の自分と大人な理人の好きの意味は気持ちは一緒だとしてもきっと物事に対する比重とかを色々考えているんだと思う。
それでも好きと言ってくれるんだ。
……大人としてじゃなくてただの理人でいいのに…、とも思ってしまう。
理人は怒ることも声も荒たげる事もない。
いつも桜を見守っているような感じだ。
それでもたまには思いがけずキスされる事もある。
しかもどうしようもなく気持ちよくなってしまうようなヤツ。
キスん時は理人も気持ちイイのかな…?
そうだといいな…。
着替えを終えて二階から降りてきた理人にぼうっとして考え事をしていた桜は慌ててキッチンに戻った。
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