「おかえり。桜、ケーキ貰ったけど食うか?」
ただいま、と桜がもう慣れて普通に理人の家に入ってくると理人はすでにリビングにいた。
「え?うん」
「冷蔵庫入れといた。じゃ、おやつに食うか」
「コーヒー入れるね!」
木曜日で理人は午後の診察が休み。
もう木曜日、だ!
明日は理人の誕生日なのにっ!
やっぱりプレゼントは何も考えられなくて…。
どうしよう、と気ばっかりが焦ってしまう。
木曜日は桜が学校を終わって帰ってくると理人はリビングでカルテのチェックをしている。コーヒー入れて、はいつもだけど今日はケーキもつくらしい。
コーヒーをセットして冷蔵庫を開けたらケーキの箱が入っていた。
中を見れば4つ入っている。
……明日ケーキもいらないじゃん。
そして箱にぐるりと回されたリボンを解き、手に取ってちょっと悩んでしまう。
「それ、大森のばあちゃんが桜ちゃんとどうぞ、だって」
リビングにいる理人の苦笑しながらの声が聞こえる。
どうやら桜の家出はご近所に知れ渡っているらしい。
まぁきっと家からも5分の所だから近所のおばちゃん、ばあちゃん達は笑ってるんだろうけど。
「会ったらお礼言っとく!」
桜はそう言いながらリボンをくるくると巻いてキッチン用品の入っている引き出しの中にしまった。
べ、別に黒田が言ってたからじゃなくて!何かに使えるか、と…。
うすいピンクのリボン。
「り、理人!ケーキ、種類みんな違うけど何がいい?」
「ああ?なんでもいいよ」
桜は考えて皿にケーキを取り分けた。
選んだのはチョコケーキとチーズケーキ。
ショートケーキは明日にしよ。
…人に貰ったもんでなんだけど、でもあるのに用意するのも勿体無いし。
それとコーヒーも用意して理人と並んでソファに座った。
「ここのケーキ屋さんおいしいって聞いた!」
「そうなのか?」
「そ!この辺では、だけどね。理人、そっちもちょっとちょうだい」
あーんと桜が口を開けると理人がくすと笑いながら自分の分を一口桜にくれた。
「あ、チーズケーキも美味い!はい、チョコも」
桜も一口理人に差し出すと理人がそれを食べる。
はた、となんか恥ずかしい事してるのか?と思ったけど、まぁ誰が見てるわけじゃないしいいだろとも思う。
「こっちも美味いでしょ?」
「そうだな」
ちょっと桜は照れくさくなったけど理人はやっぱりなんてことなさそうだ。
普通に平然としている。
いつでもこんな感じで桜ばっかりドキドキしたり、動揺したり、恥かしくなったり、…と一人で焦っている気がしてしまう。
理人は大人だから!
桜は付き合ったどころかちゃんと好きになったのは理人が初めてなんだから…。
そういえば理人は男となんか付き合った事ないって言ってたけど…、勿論女の人とはある、んだよ、な…。
えっちも、してる…よな…。
…桜はしてもらえないのに…。
むうっと桜は面白くなくなった。
そうだ。
今までだって漠然と理人が女の人と付き合ってた事があるのはそれとなく聞いたから知ってて、ただ、知ってただけだけど、それがえっちと繋がって、桜はしてもらってないと思えばやっぱり面白くない。
男だから嫌なのかな…?
違う、って理人は言うけれど。
だってしたいって思わないからしないんだろ…。
やっぱり黒田の作戦しかないかな…?
…でもいらない、って言われたらはっきり言って再起不能になるかも…。
じとりと理人を見るとどうした?という顔で桜を見ていた。
ここ最近はずっと帰れ帰ればっか言うし…。
桜はそっと理人のTシャツの裾を掴んだ。
いてもいいのかな…?
聞きたいけど帰れ、と言われそうで聞けなかった。
「なんだ?もう一口か?ほら」
違うけど!
でも理人が最後の一口残っていたケーキを桜の口に運んでくれたのにあーんと口を開いた。
「おいひ」
「よかったな」
くくっと理人が笑う。
理人はやっぱカッコイイ。
高い鼻も切れ長の目も。身長も腹筋も。
桜にはないものだらけだ。
広い肩幅。
胸も厚いし。
桜はどこをとってもペタンコだ。
理人の家の風呂の鏡で自分を見てガックリする。
きっと理人のえっちした人って綺麗で胸もあって、だろう、…きっと。
色気ってどうやったらつくんだよ?
つうか、こんなのプレゼント?
「…いらねぇよな…」
はぁ、と鏡を見てがっくりとしながら桜は溜息を吐き出した。
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