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桜誘う桜守 70

 「はよ」
 学校に行けばいつもと変わらない日常。
 「桜ちゃん!おはよ」
 女子二人から声をかけられて見るとちょっといつもと違う雰囲気に感じた。
 「はよ…。あ?髪切ったか?いんじゃね?」
 きゃあ!と女子から声があがったのになんだ?と桜は首を捻った。

 「なにオメー、女子の好感度あげてんの?」
 珍しく先に来ていた黒田が桜を見て溜息を吐いた。 
 「うん?好感度?」
 「髪切ったのどぉお?って聞いてまわってんだ。…知るか。全然かわんねぇのに」
 「そうか?」
 「そ!それお前は聞かれる前に言っちゃってるし!」
 「あっそ?」
 ふぅん、と桜は興味もなく頷いて席についた。

 そんな桜を黒田がじっと見てにやっと笑った。
 「……なんか落ち着いたな?」
 「そうかも」
 くすっと黒田の言葉に桜も笑った。
 だって桜には理人がいるという安心が出来た気がするから。
 弱い所を見せてもいいという拠り所が出来たからだろうか?
 うん、そうかも。
 桜がふっと表情を緩ませると黒田がふぅん、と鼻をならした。

 「なんだよ?」
 「いいやぁ?別に。お前が満足ならいいんじゃね?」
 「うん。あ、俺、昨日家帰った」
 「あっそ」
 「ん」
 黒田は余計な事は言わない。
 だからずっと続いてるんだとも思う。
 確かに精神的に落ち着いていると自分でも思う。
 なんか大人になった気がしてしまう。
 実際何がどう変わったなんてないのに、自分でも背伸びしているつもりもないのに。
 でもきっと悪い事じゃない。
 桜はくすっと笑った。



 「おい、桜」
 「うん?」
 学校の帰り、珍しく黒田と一緒に電車の駅に向かって歩いていた。
 「あいつお前に告ったヤツじゃねぇ?」
 「え?」
 黒田に言われて後ろを振り向き、黒田の視線の先を辿れば確かにそうかもしれないヤツのデカい姿があった。
 「……俺、かなり態度悪かったんだよな…」
 「ああ?そうなのか?」
 「ん…」
 あの時は全然人を好きっていう気持ちがどんなかなんて知らなかった。
 今ならもっと違う応対が出来ると思う。
 同性だからってバカにしたり無碍にする事はしない。

 「俺、全然何も知らなかったんだ…」
 だからって今更あん時は悪かった、なんていうのも言い訳のようだし、蒸し返すようで出来ない。
 向こうから話しかけられれば話は別だけど。
 桜のあんな態度ではそれはないだろう、と自分でも思う。
 戻せるものなら今までの自分をどうにかしたい位だ。
 「ま、反省してんならいいんじゃね?……なんか桜ちゃん大人になった感じするなぁ」
 にや~りと黒田が笑うのに桜は仄かに顔を赤くして慌てた。

 確かにっ!
 理人としちゃったし!
 そこは大人になっちゃった気が自分でもする!
 「桜ちゃ~ん?」
 黒田が桜の肩を組んできた。
 「な、なんだよっ」
 「お兄さんにお話してご覧?」
 「うっせ!ばぁかっ!テメーの方が誕生日後だから俺の方がお兄さんだろうがっ!」

 身体は土曜日はちょっとだけひどかったけど今はもう全然普通だ。
 ただまだちょっと裸にはなれないくらい理人につけられた痕がうっすらと身体に残ってはいるけどっ。
 「じゃあなっ!」
 黒田とさっさと分かれて桜は走って自分の電車の線に向かった。

 勘がいいんだから!…って理人の誕生日はバラしてるし気付くか…。しかもリボン言ったの黒田だし!
 朝は突っ込まれて聞かれなかったから油断した!
 桜は黒田と離れるとほっと息を吐いて自宅に向かう線の電車に乗った。
 電車に乗って帰れば理人に会える。
 思わず顔が緩んでしまうのは仕方ないだろう。


 ポケットから鍵を出して理人の家に入る。
 「ただいまぁ」
 応えてくれるのは隣から聞こえる機械の音。
 いつもと一緒だ。
 桜は学校の鞄をリビングに置いてキッチンに向かうとコーヒーをセットする。
 いい香りがキッチンに充満してきて理人にコーヒー入ったよ、とメール。

 早く来て!
 機械の音が止んでちょっとするとドアの開く音。
 桜はパタパタと廊下に出た。
 「理人っ」
 たった一日だ。
 昨日の夜は一人だった。
 それが寂しいなんて。
 「おかえり、桜」
 理人もただいま!と言いながらどん、と抱きついた桜を抱きしめてくれる。

 「なんだ?たった一日でもう寂しんぼうか?」
 「…うん」
 否定しようかとも思ったけど理人には自分を取り繕わなくていいんだ。
 「仕方ないな」
 理人がくすと笑って桜にキスする。
 白衣からは消毒の匂いがする。
 でも理人からだったらもう匂いも平気だ。
 すぐに離れる唇が名残惜しくて桜は理人の首にぶら下がるように腕を回した。
 「ヤダ!もっと」
 「ダメ。俺が止まんなくなる。仕事終わったらな。待ってろよ?」
 「……うん」
 ちょんと軽くだけキスして理人がそう言うのにもちろん桜は頷いた。
 
 
 

テーマ : 自作BL小説
ジャンル : 小説・文学

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