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桜誘う桜守 75

 「草刈…桜…」
 駅から理人の家に向かっている途中で後ろから名前を呼ばれて桜は振り返った。
 「あ…」
 理人を好きになる前、まだ好きが分からない時に告白してきたサッカー部だろ、と黒田が言ってたヤローだ。
 「あの男の人って…誰?」
 身長は理人と同じ位かなぁ?でかい。
 「…男の人…」
 って理人の事だよなぁ…。
 「先週大型のモールで…」
 ああ、いつものここのスーパーじゃなくたまには大きいトコに行こうか、と理人と行ったんだった。
 …見てたんだ。
 いいけど…なんて言ったらいいかな?恋人?彼氏…はやだな。

 ごまかす気はない。
 そしてコイツに対してあの時の桜の対応がかなり悪かった事は反省している。
 スーパーの近くで近所の知ってるおばちゃんとかの視線を感じて桜は近くに公園が会った事を思い出した。
 「ええとさ…悪いんだけど、俺、アンタの名前も知らないんだ。名前は?」
 「…大森」
 あれ?サッカー部の大森って聞いた事あるぞ?
 「もしかして県の選抜選ばれたとか、Jリーグからお誘いきてるとか、噂の?」
 「…一応」
 なんと!そんなスゴイヤツだったのか。
 「ま、それはいいや。ちょっとここだとアレだからこっちきて」

 桜は大森の腕を引っ張った。
 「今日はサッカー部練習ねぇの?」
 「…ある」
 サボってきてんのか?
 そんなプロからもお誘い来るとか言われてるヤツサボっちゃダメじゃね?
 思わず大森を見上げると桜をじっと見てほのかに顔を赤らめている。
 …これマジか?

 「桜…くん」
 「…そんな取ってつけたようなくんいらねぇよ」
 はぁ、と桜が溜息を吐き出す。
 身体はでかいのに桜に腕を引かれるまま大人しく大森はついてくる。
 「…好き、なんだ」
 う~わ~……また言われたし。
 とにかく人の目が向かないトコに行くのが先だ。
 公園の片隅の大森と向かい合って立った。
 やっぱでけぇな…。

 「まず謝る!」
 「え?」
 「あん時、俺、ヒドイ事言ったと思うから。そこは謝る!」
 すまん、と桜は潔く頭を下げた。
 「いや、いいよ!俺だって男からあんなコト言われたらそうなるだろうし!」
 「…俺も男だけど?」
 「分かってる。でも桜…くんだから」
 「いや、だからソコ、別に呼び捨てていいよ」
 律儀にくんをつける大森に桜は笑った。

 なんだ、いいやつそうだ。
 「ええと…桜、でいい…?」
 「いい。けど、俺好きなヤツいるから」
 大森が見る間にしゅんとうな垂れた。
 「…あの一緒にいた人…?」
 「そう!」
 「…少しも…望みは、ない…?」 
 理人といた所を見て、桜が男がいい、とでも思ったんだろうか?

 「ない!俺が欲しいのはあの人だけだから。……いいわけなんだけど、前に告られた時、俺、正直人を好きになるのがどんなか知らなかった。自分がもし好きな人に告って俺みたいな事いわれたらって…考えて…その…ずっと謝りたい、とは思ってたんだ。俺に都合よすぎな話なんだけど」
 「いや…そんな事は…」
 大森がまた桜を見て顔を赤くしている。
 ……ちょっと新鮮だ。理人がいっつも平然としてるから。
 思わずまじまじと大森を見てしまうと大森もじっと桜を見ていた。

 正直困ってしまう。
 とはいっても勿論桜は応える気なんてまったくないけれど。
 でもそんなサッカーで有名で背も高くてカッコイイ、と言っていいのになんで自分なんだ?と桜は頭を捻ってしまう。
 「…男のほうがいいの?」
 「まさかっ!」
 思わず聞いてみたら大森が大慌てで否定してきた。
 「桜…は覚えていないかもしれないけど…入学式の時に桜の下でよろしくな、って笑ったのが…その可愛くて…。女の子かと思ったけど、制服男子のだし、でもずっと…目が離せなくて…」

 「わり…全然覚えてない…」
 まったくもって記憶のかけらも残っていなかったのに申し訳ない気がする。
 新しい学校できっと上機嫌だったんだろうとは思うけど…。
 う~ん、と桜はまた唸ってしまう。
 自分で愛想ふりまくってたのか?
 そんなつもりじゃなかったんだけど。
 「桜…」
 がし、と大森が桜の肩を掴んだ。
 「わりぃ。告白ん時の俺の対応はほんと悪かったと思う。バカにしてんじゃない。今は好きって気持ち、その、分かるし…。でも俺、あの人だけだから」
 「ちょっと、だけでいいから…」
 大森が桜の肩を掴んでいた手に力をこめた。
 
 
 

テーマ : 自作BL小説
ジャンル : 小説・文学

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