「あのさ…いったい、俺なんて思われてんだ?」
「ああ?」
診察を終えて自宅の方に帰ってきた理人に思わず聞いてみた。
「何が?」
「おねえちゃんとか、結婚だ、ナース服だって…」
「ナース服???」
はぁ、と桜が溜息を吐き出して、小野さんに言われた事を説明すると理人がまた笑い出した。
「だから俺も前に聞いた事あっただろ?お前に」
そういや聞かれた事あったな、って思い出した。
「…なんか分かんなくなってきた」
まぁどうでもいいや、と桜も投げやりになる。
「俺としちゃ堂々と言っても歓迎ムードでありがたいけどな」
ぶふっとまた笑い出す。
「仲いいな、位がほとんどだとは思うけど」
ぐりっと桜の頭を理人が撫で、そして桜にキスする。
「歯医者の先生が高校生の男の子にこんな事してるなんて思ってもいないのかもな」
桜の顎を掴み、上唇、下唇と啄ばまれて舐められて舌を絡める。
「んっ…」
桜が思わず声を漏らすと理人が桜を離した。
「…もう感じた?」
「ち…げ…っ!」
嘘。ほんとは気持ちよくてもっと、と思った。
「バイト…桜のおかげでかなり楽だ。ほんと…」
「……うん…。確かに子供があんなんだと酷いかも、な。最初は理人がただ単に言ってるだけかと思ってたんだけど」
「…あのね。俺だって一応経営者なんだから無駄な事はしませんよ」
「…うん」
だから嬉しいんだ。
「受付も中も助かるって。子供泣くたびに手が空いてる誰かが子供見に行ったりとか、お母さんが宥めにいったりとかだったから。春休みはホントひどかった。夏休みは長いしちょっと恐怖だったんだけど、桜のおかげでスムーズだ」
へへ…と桜もそんな風に誉められれば嬉しくなる。
それは小野さんとか、中の人達にも言われて本当なんだと思えればよかった、と思うしかない。
理人はちゃんと考えてくれているんだ、というのも分かった。
ただ単に桜が心配だけという事で勝手に子守のバイトなんて決めたのだったら中の人にだって桜は迎え入れられないだろう。
「理人っ。ありがとっ」
おかげで仕事、という事についても考えるようになった。
よく社会勉強の為にバイト、なんていうけれど、本当にそうかも、と思う。
ただ過ごしていた毎日のそこらに仕事で働いている人がいるんだ。
理人といるようになってから自分でも大人びた、と思う。
姿じゃなくて精神が。
色々な事を考えるようになった。
理人に抱きついたままじっと考え込んでいると理人がくすっと笑って桜に軽くキスした。
「大人な顔になってきたな?」
「え?」
「一番初めは幼稚園児以下かと思ったが…」
「うわっ!ひっで」
「酷くない。お前子守しててどおよ?桜以上に騒ぐ子いたか?」
「………いません」
「だろ?おまけに幼稚園児なら暴れてもかわいいくらいだけど、お前の大きい身体で暴れられたんだからな?」
「……はい、スミマセン…」
それは確かに自覚がある。
「でもっ!でもっ!こえぇんだもん!…つうか!その原因作ったの理人じゃん!自業自得だっ!」
「う~~~~ん…それ言われると確かにそうだけどな…」
そしてまた軽くキス。
「でも真面目に…いい顔になってきた、と思うぞ?」
「…ホント?」
自分でも思ってた事が理人にまで言われて桜はさらに機嫌がよくなる。
「ただ…ん~~…」
「ただ?」
「エロくなったようにも見える」
「そ、それは!理人だけだろ!?」
「…そこがワカンネェんだよな…。俺はほら、桜は可愛いし、好きだからそう見えるのかな、って思うんだけど…」
「そ、そ、そ、…そう、だろ…」
「いや、どうだろ…?ウチみんな働いてるの女子で、お前も女子のくくりに入ってるからだけど…」
「はぁ!?なんだ女子のくくりって!」
「いや、まぁね…ほら。おねえちゃんだし?ま、そこは置いといて、たまにヤローの患者来ると桜の事じっと見てるやつとかいるんだよな…そんなヤツは桜のいる時間に次の予約は入れさせねぇけど」
「…はい?」
「あんまし可愛いのもほんと困るよな…」
「…………」
今、大人な顔になってきたとか、色々嬉しい事ばかり言われて機嫌がよかったのに一気に桜の顔は不機嫌モードに変わってしまう。
なんか、なんとなくだけど面白くない。
心配してるのも分かるけど、信用されてないように思える。
ついと桜は理人から離れた。
「理人、着替え!」
「え?ああ…桜くん?なんか怒ってる?」
「いいえ~~~!べつにぃ~~?」
ぷいと理人に背を向けて桜はキッチンに向かった。
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