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熱視線 円舞曲~ワルツ~8

 怜の録音をする日がやって来た。
 緊張して明羅の方が固くなっている。
 「お前が緊張してどうするんだ?」
 怜が笑っていた。
 ホールは一日貸切。
 スタジオではなく生音に近い音をとホールを貸しきったらしい。
 調律に伊藤さんが来てくれて今調律の真っ最中だった。
 「…落ち着かない」
 誰もいない客席に悠然と怜さんは座って、隣に小さく明羅が座っていた。
 「おう。お待たせ」
 生方さんも合流でますます緊張する。
 マイクのテストで動く人とか見ればますます固まってしまう。
 「やっぱり、ショパンとかにしない?」
 「しない」
 呆れたように怜が見た。
 「今ここにきてソレ言うか?」
 「二階堂さん、音とタッチのチェックを」
 伊藤さんに呼ばれて軽やかに怜さんはステージに上がった。
 今日は客が入るわけでもないし、映像を撮る訳でもないので怜さんは普段着。
 怜のピアノの音がホールに鳴り響く。
 ああ、人がいないからすごく音が響く。
 いや、響きすぎる。
 「怜さん!音、響きすぎるよ!」
 明羅は声を出した。
 「…だそうです」
 伊藤さんが笑って微調整してくれる。
 「明羅君、今度は?」
 黙って聴いて頷いた。
 伊藤さんも満足そうだった。
 「伊藤さん、このあとの予定は?よかったら聴いていきませんか?」
 怜が声をかけた。
 「いいんですか?」
 「ええ!是非。俺の演奏じゃなくて、明羅の曲を聴いて欲しい。それで、もしよければ評価もお願いします」
 「…明羅君の曲?」
 「そう。これから俺が演奏するのは全部 桐生 明羅 作曲なんです」
 伊藤さんの目が大きく見開き、そして明羅を見た。
 「余計な事言わなくていいのに…」
 「いや、俺はいいと思うんだが、音楽を知っている人に聴いてもらいたいな、と。生方じゃあてにならんし」
 「では是非」
 伊藤さんは道具を仕舞って客席に降りてきた。
 「このことご両親は?」
 「ええと、お父さんには言ったけど。お母さんは知ってるか知りません。多分お父さんから聞いてるとは思うけど」
 「…楽しみです」
 伊藤さんがふわりと笑みを見せた。
 「二階堂 怜のピアノが聴けるのもない事なのに」
 「伊藤さん、聴いたことあります?」
 「ええ。何回かは。チケットがなかなかまわってこなくて。調律してさようならが悲しかったですね」
 じゃあ、録音始めます、と声がかかって明羅は黙った。
 怜がピアノの前に座る。
 息を吐き出して鍵盤に触った。
 
 
 明羅は自分がステージに立っているわけじゃないのに身体が震えてきた。
 大勢の客はいない。いないけれど…。
 ふるふると震えて手を組んだ。
 それでも身体は震えてしまう。
 なんで怜さんはこんな無謀な事を言ったのか。

 小曲から。
 あまり長くない曲。
 明羅の中では1番2番で8番まである。
 どれも5分足らずの曲だ。
 

 一気に全部いってしまうらしい。
 小曲を終えてワルツ。
 家ではふざけてエロく弾くけど、全然そうは聴こえなくて、最初は軽やかに、真ん中はしっとりと、最後は華やかに、ドラマティックに。
 明羅が思ってたように怜が奏でていく。
 どれも全部…。
 やっぱり泣けてきそうで目が潤んでくる。
 これでソナタ弾かれたらまずいなぁ、と思ったら、流石に休憩を入れるらしい。
 怜は演奏を終えて立ち上がった。

 「どうだ?」
 ステージから屈んで明羅を見た。
 明羅はただこくこくと頷く。
 「伊藤さん、どうです?」
 「え?あ、…すみません…。引き込まれてました」
 どこか呆然としたまま伊藤さんが答えた。
 「いいでしょう?」
 「いや……言葉で出てきません…」
 「ところがこんな比じゃないのが残ってるんです」
 にやりと怜が笑った。

 「その前にさっきのワルツ…」
 「ちょっ!!!怜さんっ!!!」
 怜がピアノに戻っていく。
 あれを弾く気だ!
 明羅は耳を塞いだ。
 それでも聴こえてくるエロいワルツ。
 ちょっとだけで止めたけど。
 「どうです?」
 「……いや、その…なんとも色っぽい、というか…」
 伊藤さんが困ったように苦笑していた。
 「違いますよ。はっきり言っていいんです。エロいワルツって」
 「もうっ!!」
 怜がくつくつと笑っていた。
 「あれ…全部、明羅君が?」
 「ええと、…はい」
 あと残っているのはCMの2曲とソナタだ。
 
 
 

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