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桜誘う桜守 84

 足りない。
 出してもらったけど全然足りない。
 身体が火照っているのがわかる。
 「理人のばかぁっ!」
 ソファでころんと横になって自分の体を持て余した。
 あんなん言われて、出されて…。
 夜な、なんて言われて。
 エロくなりすぎじゃないかと自分でも思ってしまう。
 「……宿題しよ」
 忘れるのには勉強がいい。
 
 そう思ったのに、全然やっぱりダメだった。
 教科書をぽい、と投げ出してまたソファに横になる。
 携帯を出して理人にメールした。

 <理人のバカ!>
 <ごめんね。夜まで我慢してね>

 あっさりと返ってくるメールに桜はふてくされた。
 寝ちゃお!
 部屋はクーラーが効いてて涼しい。
 寝たら時間が早く過ぎるかも。
 今日はコーヒーもなし!
 桜だって我慢してるんだから理人もがまんすればいい!


 「桜ちゃん?怒ってる?」
 理人の声に桜は跳ね起きた。
 ぐっすりと熟睡してしまっていたらしい。
 「おかえりなさいっ!やばい!全然なんもしてない!簡単なのすぐ作るから!ごめんっ!」
 凝ったの作ろうかなんて思ってたのにすっかりそんな時間なんか終わっていたらしい。
 寝ている間に桜の熱は治まったし、今はご飯の用意の方が先決だ。
 「桜」
 理人が桜の後ろを追いかけてきて動こうとする桜を後ろから抱きしめてくる。

 「理人!シャワー!先行って!」
 その理人の腕を振り切って桜は風呂場をびしっと指さした。
 「え~…だってほら、桜が待ってると思って」
 バカ、とだけメールしただけなのに桜が疼いてたのは知っているらしい。メールでも夜まで…って返ってきてたけど。
 「今はもういいもん!煽るだけ煽ってしてくんないからもう知らないっ!」
 「………桜、自分でしたの?」
 「し、してないっっ!!!」
 「桜が待ってると思って慌てて終わらせてきたのに、桜寝てるし…」
 「理人が悪いんだから!何も手つかなくて寝ちゃったの!おかげで何も出来てない!理人は風呂っ!」
 「え~…」

 上目遣いに桜が睨むと理人が苦笑する。
 「桜が待ってると思ったんだけどなぁ…」
 「ぁ…」
 そんな事言われてキスされれば昼にされた理人の手を思い出してしまう。
 「でも!しないっ…!」
 だって!ホントにマジで爆睡しちゃってて全然なんも用意してないから。
 「別に毎日用意っていいんだぞ?何か頼んだっていいし」
 「よ、くないっ!」
 桜はもう一度腕を伸ばしてきた理人から身体を捩って逃げた。理人も本気ではなかったのだろう。本気だったら桜なんかきっと簡単に逃さないだろうから。
 「…仕方ないな…」

 理人が苦笑して諦め、肩を竦めて風呂場に向かう。
 ……せっかく理人から…だったのに…。ダメって言ったら…理人からもう、してもらえなくなる、かな…?
 理人がいなくなった途端に桜は自分が頑なに拒んだような形になったのに後悔してしまう。
 風呂場に桜は追いかけた。
 「理人」
 「ん?どした?」
 引き戸を開けて風呂場に顔を出した。
 裸でシャワーを浴びてる理人の身体は凝視しないようにして桜は視線をどこ向けたらいいかと思いながら顔を赤くして口を開いた。
 「お、俺…やだ、じゃない、よ…?」
 「あ?何が?」
 理人は桜が見てても恥ずかしいはないのか、平然としている。

 「だ、…て…今……折角…理人から…。…いっつも…俺から、ばっか…だか、ら…」
 「……お前何の心配してんの?あのな…。いつも桜から?そんな事ねぇよ。俺は自制してるだけ。本当は桜を帰したくないし、いつでもしたい位だけど?」
 「そ、そう……なの…?」
 「……当たり前だろ。折角、ってなんだよ?俺がしたくないとでも桜は思ってたのか?」
 「そ、う…じゃないけ、ど…。しなくても、いい…とか…思ってるの…かなって…だって…帰れ…とか、言うし…」
 「………桜くん今日お泊りね?お家に連絡入れといて?」
 「え?」
 「桜?いいの?俺シャワー終わっちゃうよ?」
 「あ、まだっ!」

 桜はばたんとドアを勢いよく閉めてキッチンに入る。
 簡単に晩御飯用意しながら家には泊まるから、と連絡。
 いつも泊まっていい?と聞くのも桜からで、理人から泊まれ、って言われた事はなかった。
 本当は帰したくない、とも言ってた。

 そう、なの…?

 桜は自分だけがそうだと思ってたけど、そうじゃなかったと分かれば、理人がそんな風に思ってくれてたと分かれば嬉しくなってしまう。
 「帰したくない…だって」
 顔がにやけてくる。
 いっつも理人に帰れって言われるのが必要じゃない、と言われているみたいで寂しかった。
 そんな意味じゃなくて桜が高校生だから、と理人が考えているのは分かっていたけれど。
 やっぱり理人から必要とされているみたいに言われれば嬉しくなってしまう。
 
 
 

テーマ : BL小説
ジャンル : 小説・文学

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