高校生だとか、自制だとか、考えなくていいのに…。
ただの桜でいいのに…。
男だから、女だからじゃないって、前に言ってくれた。
桜だから、って…。
桜だってそうだ。
理人だから、だ。
「なんで人を好きになんのかな…?」
ごはんを食べながらぽつんと桜が呟いた。
別に理人からの返事が欲しかったのでもなかったのだが、理人が桜を見てふっと笑った。
「人は一人で生きていけないから。桜のお母さんとお父さんが好き合って桜が生まれたんだ。そうだろ?」
「………あ…そう、だね」
「俺達の場合子供は出来ないだろうけど」
「……できないだろう…?だろう、じゃなくて、できない、でしょ」
「いや、なんとなく桜ならできそうかなぁ?なんて?」
「バカ?」
くっくっと理人が笑っていた。
「好きで一緒にいるんだ。桜は何も気にする必要ないから」
「え?」
「桜くんなにげに気にしいだから。積極的なくせに」
「だ、だってっ」
理人がくすりと優しく笑った。
「思った事言っていい。そんな小さな事で嫌いになるほどだったら最初から桜を選んでないから。俺よりも桜に俺の方捨てられる確立高いぞ。絶対」
「ない!……から…」
理人がまた笑った。
かぁっと顔が熱くなってくる。
だってすっごい優しい顔なんだもん!
やっぱ好きだぁ…と気持ちがぽやぽやしてきてしまう。
泊まれと言われてドキドキしてしまう。
だって!
身構えて、そして寝るか、と声をかけられ、ベッドに連れていかれれば理人の手も身体も熱も思いも…とにかく昼間中途半端だった分の理人の全部を感じさせられた。
お盆の14日。
桜と母親、撫子と一緒に理人の運転で桜の父親のお墓参りに行った。
なんか、コレってどうなのかな…?
ちょっと、いや、かなり恥ずかしいと思うんだけど、母親も理人も平然としている。
撫子も、先生!なんて普通に声かけてるし。
喧嘩までして理人を好きって言ったはずなのに、撫子は桜の好きともう意味は違っているみたいだ。
そういや黒田が憧れの好きだろ、って言ってたけど、やっぱそうだったのだろうか…?
「桜?」
「え…?」
「水、もういいだろ?」
水を汲みながらぼうっとしてたらいっぱいになっていて慌てて蛇口を閉める。
4人で並んでお墓参り。
変だけど…。
手を合わせながら父親に話しかけた。
好きな人男の人だけどいい?
初めて話出来たんだ…。男の約束の事。誰にも言った事なかったのに…。言えなかったのに…。初めてなんだ。誰かの前で泣いたのも。泣けるのも。全部理人だけなんだ。来年の誕生日にも一緒に来てくれるって。
だから…いいかな…?
ちらと隣で目を閉じて手を合わせてる理人を横目で見た。理人は何を拝んでいるのだろう?
桜の事、だといいな…。
桜の視線に気付いて理人が目を開けて桜を見ると瞳を細めた。
優しい目…。
その後桜の家に戻って理人も桜の家でご飯を食べて行く事になった。
母親と撫子がぱたぱたと動いて準備している。
「理人、俺の部屋…行く?」
「行く」
そういえばいつも桜ばっかり理人の家に行ってるから桜の部屋に入るのは初めてだ。
理人のデカイ身体が桜の部屋にあるのに何となく落ち着かない。
「…桜のベッド……狭!」
「狭いんじゃなくて普通のシングルです!そんで理人がデカイの!」
「ま、そうだな。…桜」
理人が桜のベッドに腰かけて桜を呼ぶ。
呼ばれれば吸いつけられるように理人の前に立って桜がちょっと屈み理人に誘われるように唇を重ねた。
「お父さん、いいって言ったぞ?」
「………嘘だ」
「いいの。言われたの」
同じ事思ってた?
「理人…だけなんだ…」
「うん。だから桜を任せてくださいって言ってきた」
「…ん」
桜の目が潤んできた。
「来年の命日も…一緒行って…?」
「来年だけじゃなくずっと。桜の誕生日は一緒にいるから」
父親の命日じゃなくて桜の誕生日、って言いなおす理人にまた泣けてきそうになる。
「我慢しなくていい」
理人の腕が桜の身体をひっぱって抱きしめてくれる。
「うん…」
ほら、理人の前だけなんだ…。桜がこんな風になるの。
理人の胸に縋って少しだけ雫を零す。
少しだけ…。
理人の腕が優しく桜の背中を宥めてくれる。
そして耳や頬に軽くキスされればくすぐったく、温かい気持ちになった。
お墓参りの後はいつも桜は一人で部屋に閉じこもっているのがいつもだったけれど、理人がいるだけでこんなに違うんだ…。
テーマ : BL小説
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