車に乗っても桜は仏頂面。
そりゃそうだ。桜にこんな趣味はない!
鏡も見ていないから自分がどんな事になっているのか分からないけど。
「どこ行くの?」
理人が高速に乗ってぐんとスピードを上げた。
「ウチ」
「へ?」
「うちの実家」
「な、な、な、なんでっ!」
「いやさ~…見合いって言ってただろ?あれが勝手に進められそうになって!そんでちゃんと好きな子いるから、と言ったらどこの誰だとか連れて来いとか。相手高校生だから無理だって言ったら、きっと結婚したくないから嘘ついてるんだ、まで言われて…。それなら、と…。桜に女装して?とは頼めなくて…お母さんに協力を頼んだ」
はぁ、と桜はげんなりした。
「それなら別にそう言えばいいだろ」
「いや、だって俺はホントはこんな事したくねぇし。桜は桜だから。でもうちの親に相手男ですは…う~~~ん……って感じで」
「いや、それ普通だろ」
「そうだけど…。でも…やっぱ俺的に面白くはない。けど…桜ちゃん美少女~~~!いやぁ可愛いねぇ」
「……………」
嬉しいような、嬉しくないような…。
「桜紹介して、まだ高校生だからって言えばほらもう何も言われないし、見合いって話ももうこないだろ?だったらその方いいかな、と思って」
そこは確かに…。
これからも見合いだなんだと理人に話が来るんだったら桜の神経はきっと面白くないってふてくされるだろう。
「…なら協力する」
「うん。ごめんな?」
「いい…。俺だって理人に見合い話来るのやだし」
「……桜ちゃん?言葉直そうねぇ?俺はダメ~。私、で!」
むぅっと桜は頬っぺたを膨らました。
「面白くねぇっっっ!!!」
「ごめんって~~~~!」
それでも理人は笑ってた。
「ほんのちょっとでいいから。ウチに今日泊まる気ないし」
「…そう、なの?」
「ああ。でもそのままデートに行こうか?手繋いでも腕組んでも誰もなんとも思わないぞ?人前でべたべたデートする?」
あ、そっか…。見た目は完璧女だから…。
「……する」
うん、と桜が頷くと理人が笑っていた。
冷や汗が流れる。
家、でかいし!
理人に連れて行かれた家の立派さに桜は気後れしてしまう。
「理人ぉ」
「うん?大丈夫、大丈夫」
車庫に並ぶ車も高級車ばかり。
さすが皆医者の家系…。
車から理人に抱っこされて降りる。
「あ、桜、ちょっと待って」
理人が桜を立たせると頭のピンを挿し直してくれる。
「いいよ。はい、おいで」
気後れして理人の腕にすがりながら理人に案内されて家の中に入った。
「草刈 桜、です」
リビングに通されて、ソファに座った。
隣に理人はいるけれど、目の前には理人の両親と妹さんが並んでじっと見られているのに冷や汗がだらだらと背中を流れる。
確かに、あの時、桜がかってに誤解した女医さんだ。
「桜ちゃんはまだ高校生って聞いたけど?」
「はい…高校2年、です」
本当に男ってバレないのかな…?
心臓がばくばくしてるんだけど。
怖くて助けを求めるように理人を見れば大丈夫、と理人がにっと笑ってくれるのにほっと息を吐く。
「理人と年の差あるのに本当に?」
「年は…関係ない、です…」
「それにこんなに可愛いのに……」
え!?
ちらっとまた理人と顔を合わせた。
なんか向いの三人にさらに凝視されて怖くなってくる。
「り、ひと…」
怖いんだけど…とちょっと理人に擦り寄った。
「大丈夫だって。お前があんま可愛いから…。ウチの人面食いだからなぁ」
え?そうなの?理人も!?
「う~ん…俺は違うと思ってたんだけど…違ってないのかも」
そう言って理人が桜の身体を引き寄せたのに桜が慌てた。
「ちょ…」
そんな家族の前なのにっ。
顔が熱くなってくる。きっと真っ赤になってるかも。
「これで嘘じゃないって分かっただろ。だから一切あと見合いなんて話は持って来ないで下さい」
そこは桜もお願いしたいところだ。
じっと桜が向かいの並んだ人達を見た。
理人のお父さんもちょっとカッコイイ。
お母さんも美人だ。きりっとしてるいかにも仕事が出来ますという感じのお母さん。妹も勿論美人さん。
そういや妹さん家事ダメっていってたな、と余計な事まで思い出した。
「そういう事なら…。まぁ」
お父さんとお母さんが頷いている。
いいけど…。スミマセン…ホントは男なんです、と桜は心の中で頭を下げた。
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