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桜誘う桜守 94

 理人の腕に抱きついたまま眠った桜の頭を撫でる。
 その顔は満足そうで安心しているみたいだ。
 女の子と間違える、いや、女の子の格好したら間違いなく誰も疑わない位可愛い美少女な男の子だけど。
 ちゃんと男の子だ。
 まさかヤローに、しかも高校生に夢中になってるなんて自分でも本当に信じられない位だ。
 桜の家にも自分の家にも認めさせて思い切り独占欲を丸出しだ。
 自分とこは桜を女の子だと思っているだろうけど…。

 このまま騙くらかしてしまおうか?
 何故かしらないけど、桜の家の近所も違和感ないみたいだし。
 まぁ、桜の容姿がこれじゃ納得もするけど…。
 桜色のぽたっとした唇に思わずじっと見入ってしまう。
 いや、これ位だったらもっといい男引っ掛けられるかも。
 思わず眉を顰める。
 オヤジ、なんて言いながら桜が甘えてくるのが嬉しいし、もっと甘えて欲しいと思う。
 初めてを全部あげる、なんてオヤジには殺し文句だろ。
 別に初めてに拘った事など一度もないが、桜に関してはどれもが初めてで、一番でありたいと思ってしまうんだからやっぱり桜だけが例外だ。
 ただの近所の可愛い高校生なだけなはずだったのに、なにげに理人の運命にもかかわり、そして理人も桜の運命に関わっていた。

 小さい桜を思い出す。
 ブランコにぽつんと座っていた。
 声を上げるのでもなく、でもずっと青い顔をして泣いてたんだ。
 あの時お父さんが…。
 それを知っていたらもっと優しい言葉をかけたのに。
 甘えさせてやれたのに。
 そこは後悔がどうしても浮かんでしまう。
 理人が脅した所為で青い顔がさらに真っ青になったんだ。
 でもあれがあったから理人は歯科医になったし、桜は誰にも泣き顔も泣き言も言わず一人でがんばってきたんだ。

 それがこうしてまた運命が交差して今なんだ。
 運命なんて信じたことなんてなかったけど、理人の中で桜の事は衝撃といっていい。
 桜が理人だから、とかだけ、とかよく言うけど、理人も桜だから、だ。
 桜の前髪をあげ、白い綺麗な額に唇を落とす。

 「り、ひ…?」
 まだ、熟睡までしていなかったらしい。
 「うん。安心して寝ろ」
 「…ん」
 仄かに桜の口元が笑みを作る。
 それだけで理人も顔が緩んでしまう。
 どこもかしこも可愛くて仕方ない。
 容姿が、じゃない。
 ちゃんと男の子で妹を守るトコなんてカッコイイだろう。

 理人を放って助けに行くんだ。
 …理人的にはハラハラするけど。
 本当はそういう時だって頼って欲しいとか思ってしまうけど。
 でもそれが桜だ。
 いつも桜は真っ直ぐ前を向いている。
 気持ちも行動もストレートで気持ちいい。
 このままでいて欲しいな、と思ってしまう。ずるい大人になんかなって欲しくない。
 ならないように理人が守ってやればいいんだ。

 ホテルに来た時の桜の態度を思い出してふっと理人はまた顔を崩す。
 ちょっと気後れしていたのだろう。
 でもそれを桜は撥ね退ける。
 夜景よりもそれに見入ってる桜の目の方がキラキラしてた。
 何したって桜にしか目がいかないんだから…。
 桜といるとつい苦笑が多くなってしまう。

 自分で自分がおかしくて。
 夏休み中も家に帰すようにしていたけど…。
 高校卒業までまだ1年半もあるんだ。
 「う~~~~ん……」
 無理かもしれない…。
 自嘲の笑みがまた浮かんでしまう。毎日ご飯作って、おかえりなさい、言われて。可愛くキスされて。
 …我慢がいつまでもつか。
 顔赤くして目と態度が誘ってくるのに必死に我慢してる自分に頭を抱える毎日だ。

 「わかってねぇよなぁ…」
 いや、分かっているのか。
 とにかく高校卒業までは桜は家族のもの。
 それ以降は理人がもらう。
 「そこまでの我慢…」
 …といいつつ、つい桜を離したくなくてこんな風に連れ出したり、泊まらせたりしてしまうけど。
 桜の頬を撫で、そしてキスする。
 もうすっかり眠ったらしく反応はない。
 それでも相変わらず桜が理人の腕にしっかりとしがみついているのが可愛い。
 可愛くてつい意地悪を言いたくなるって、どんだけ自分の方が子供なんだか…。
 可愛い桜が悪い。
 眠っている桜につい悪戯心で何度もキスしてしまった。
 
 

テーマ : 自作BL小説
ジャンル : 小説・文学

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