「じゃ俺帰るっ!」
「…………もう?」
「だって黒田来てるしっ!」
土曜日、プールを終わって買い物して理人の家に帰ってくるとすぐに桜はご飯の用意をして自分の荷物を持って帰る準備だ。
「………送ってく」
「いいよっ!まだ明るいし!じゃ!」
桜はそう言って走って理人の家を飛び出して走って帰ってしまった。
玄関で見送る理人の事などもう忘れたかのように後ろを振り返りもしないで一目散に走っていく。
「はぁ………」
ここのところ土曜日日曜日は黒田くんが桜の家に遊びに来ている事が多くて、桜は撫子ちゃんの事が心配でさっさと理人を捨てて帰っていってしまうのだ。
当然お泊りもなし。
あんなに泊まっていい?と聞いてきてたのに全然。
撫子ちゃんが大事なのは勿論分かるが…。
はぁ、ともう一度大きな溜息を吐き出して理人は家に戻った。
その15分後だった。
インターホンが鳴って、誰だ?と思ったら帰ったばかりの桜が玄関に立っていた。
「桜?どうした?」
しかも顔を俯け、かなり項垂れている。
「り、…りひとぉ…」
玄関のドアを閉めるとぼろぼろと泣き出して首にしがみついてきたのに驚く。
「どうした?」
首にぶら下がるような桜の背中を抱きしめてそのままリビングまで運ぶ。
「何した?」
ソファに座っても桜は離れず、えぐえぐ泣いているのに何事かあったのかと心配になる。
「なで、しこが…」
「どうした?」
「キスしたって~~~~!!!」
…………………なんだ。
思わず脱力してしまう。
「しかもっ!!!撫子からだって~~~~~!!!」
………さすが兄妹。
「…それで?黒田くんは?」
「追い出してやった」
「……桜は黒田くんと撫子ちゃん付き合うの嫌なのか?」
「…別に嫌じゃない」
「じゃあいいだろ」
「よくないっ!」
う~~~ん…コレ、まるきり娘を取られた親父か。
「桜…今日泊まる?」
「え?」
「ずっと桜が俺を放ってるから俺はずっと寂しかったんだけど?さっきだって俺の事なんか何も考えてないでさっさと帰っちゃうし?ここんとこずっとだ」
「………理人…」
桜の唇を啄ばむと桜は大人しくなった。
「今日は帰してやんねぇぞ?俺をほっぽって黒田黒田って!」
「べ、別にっ…黒田がってんじゃ…」
「言い訳ダメ。今日は俺の事だけ考えてろ」
「あ、ぅ…理人だけ、だよ…?」
「嘘だな」
桜に何度もキスして服の下に手を差し入れれば桜の息が上がっていく。
「桜…お前が俺の事反対されたらどう思う…?」
「りひと…の事…?」
「そう。お前のお母さんも撫子ちゃんにも反対されてないだろ?」
「う…ん……………わかって、る…」
くすと理人は笑う。
「…もう…言わない……」
「うん…。桜が撫子ちゃん大事なのは分かるけど、俺の事忘れんなよ」
「忘れてない!もん!…でも、……うん…」
…これで少しは桜も落ち着くか?
むぅっとしながらも素直に頷く桜が可愛い。
リボンの桜をプレゼントは黒田くんの案らしいからこれで礼になるだろう。
「何これ?」
仕事を終え、カルテを抱えてリビングに入るとテーブルにリボンのかかった箱が置かれていた。
「なんか黒田から。先生にって。理人から言われたからもう何も言わねぇって言ったら、なんかそれお礼だから渡してって貰った。黒田は従兄弟から貰ったんだけど、黒田がいらないからあげるって。いらねぇものよこすってどうなんだ?って感じだけど」
「中身何?」
「知らないよ。理人に渡せよ、って何回も言ってたけど…」
なんだろ?と理人が包装紙を開けるのを桜も一緒に見てた。
「なっ!!!ばっ!…っっ!!」
「…………やるな」
「やるな、じゃナイっ!!!何考えてんだあのクソバカっ!」
「いいじゃん。撫子ちゃんに使う気ないって事だろ」
「そ、そ、そ…………」
桜が赤くなったり青くなったり忙しい。
それもそのはずで出てきたのはオトナのオモチャだ。
「そ、そ、…それ…」
「うん?」
桜が顔を真っ赤にしながらもちらちらとそれを何度も見てる中、モノを箱から取り出し電池をセットする。
どうやら桜が興味津々ではあるらしいのに思わず理人は笑いそうになってしまう。
「スイッチオン」
ビーとローターの震える音。
「そ、そ、…それ…ってキモチ…イイ、の?」
「知らん。俺は使った事ない。…桜クン?今日お泊り決定!後で試したげるね?」
「べ、べ、別にっ!い、らないっ!」
「遠慮しなくていいよ?」
「い、い、…いらないっ…!」
桜がぴゅうっとキッチンに逃げていく。
勿論、興味ありげな桜に使ってやるしかないでしょ。
…………いいけど、高校生からのプレゼントかぁ?
従兄弟からって話らしいが…。
親戚は多いらしいけど、従兄弟からってのが本当かどうか定かじゃないが…。
撫子ちゃん大丈夫かな…?
いや、いらないからプレゼントってよこすくらいなら大丈夫なのか?
「う~~~~~~ん……」
理人は思わずローターを手にしたまま唸ってしまった。
テーマ : BL小説
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