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焔の扉の前。 3

 尚が声をかけたのに遥冬が大人しくついてきた。
 さすがに遥冬も辟易していたらしい。
 「履修科目、何とってんだよ?」
 廊下にあった椅子に腰掛け取った科目を確かめ合うと尚は頭を抱えた。
 どうやらほとんど顔を突き合せそうな勢いだ。
 「どんだけだよ」
 「…こっちが言いたい事だ」
 だが、わざとじゃない。
 分かっているから遥冬も微妙な顔をしているんだ。

 加々美 遥冬に尚はじっと視線を向けた。  
 名前に冬が入っているせいかどうかは知らないが、愛想なんて言葉知らないだろう位の無表情。
 わずかに見えるのは困惑だけだ。
 人形のように白い陶磁器のような肌に冷たい瞳。
 誰もが目が惹かれる容貌だが、視線が寒々しい。

 岳斗みたいなヤツだったらからかって遊べるのにそんな冗談など冷たく一瞥されて終わりそうな雰囲気だ。
 言ってみなくても分かる。
 きっと侮蔑の視線を向けられ終了だろう。
 …つまんねぇな。
 いくら美人で綺麗だって人形相手なんかつまらないに決まってる。

 「よくもこんなに重なったものだ…」
 尚が呟くとぱっと遥冬が顔を上げたのでじっと見ていた尚と視線がもろにかち合った。
 真正面から見ても見惚れるくらいに綺麗だ。
 寒々しい空気が合いそうだと思ったけれど、大きなガラスから差し込む午後の明るい陽射しの下も悪くない。
 尚はふっと視線を外し、肩を竦めた。
 「とりあえず、ホントによろしく、だ。休んだ時とかノートよろしく」
 「……」
 遥冬も仕方ないと言わんばかりに肩を竦めた。

 自然、どうしたってつるむ事になってしまう。
 「遥冬、第二外国語、休講の張り紙見たか?」
 「…見てない」
 「休講だって。飯行こうぜ」
 遥冬はいい、も悪いも言わない。表情も変わらない。
 それでも尚が誘えば拒絶はないのかついてくる。
 表情は変わらなくても嫌われているわけではなさそうだ。
 …仕方ないってのが大きい気もするけれど。

 「…遥冬って地元組?」
 「…いや違う。もっと田舎から出てきた」
 尚が聞けば一応は返事はする。
 でも詳しい話はほとんどなく一言で終了。さらに遥冬から質問が尚に向かって来る事はほとんどない。
 しかし、田舎、なんて。およそこの容貌に田舎なんて言葉は似合わない。
 一度見かけた岳斗のバイト先の近くに住んでるのだろうか?
 一人暮らし?

 「よぉ、尚。最近ずっとコイツとつるんでるな!」
 尚の肩を叩きながら声をかけてきたのは同じ高校出身のヤツ。
 地元組な尚は結構知り合いも多いし、一部で知られてた事もあって声をかけられる事が多い。
 「だってほとんど履修同じなんだもんよ!示し合わせたんじゃないかって位」
 「へぇ~!偶然で!?」
 「当然だろ」
 「…お前ら目立ちすぎるよな~」
 「ああ?」
 尚がご飯を口に運びながら眉を顰めた。
 そして遥冬もまた細い形のいい眉を顰めていた。

 「……目立つ…?」
 尚は自覚があったが、遥冬はまったくなかったらしい。遥冬がかなり嫌悪を表面に出して呟いた。
 「一人でいたって目立つのにつるんでるから!」
 「…不可抗力だ。どこいったって一緒になるんだから」 
 嫌悪を表した遥冬をちらと見て尚は苦笑した。全然気付いていなかったのだろうか?
 こんな目立つ綺麗な顔で今まで晒されてきただろうに?
 田舎だったらそれこそ噂のまとだったはず、と思うのだが。

 「…目立つ、のか?」
 午後の講義の教室に向かいながら珍しく遥冬から話しかけてきた。
 「…だろ」
 一部女子に騒がれているのも尚は把握していた。
 そんなの別にどうでもいい事だったので放っておくけど。
 「……一緒にいないほうがいい、かも…」
 「今更だろ?」
 「……………」
 「それに一人でいたってどうせ目立つに決まってる。………んん?いい、かもってどんな意味だ?」
 「………尚…の迷惑になるだろう、から…」

 おおっ!?
 尚はじっと遥冬を横目で凝視した。
 初めて名前を呼ばれたぞ?
 しかも氷の表情が少し崩れている。
 苦しそうに…。
 何を抱えているのか。

 尚は肘で遥冬の身体をとんと軽く突いた。
 「迷惑なら迷惑だってはっきり言ってやる」
 遥冬が目を大きく見開いて尚を見上げてきた。
 身長は尚よりも頭半分位下か。
 でも肩の線なんか尚よりもずっと細い。
 「……そう、か?」
 「ああ」
 遥冬の口角が仄かに上がったのに尚もにっと笑って見せた。
 
  

テーマ : 自作BL小説
ジャンル : 小説・文学

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