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焔の扉の前。 4

 遥冬が休んだ、らしい。
 休んだらしい、というか、講義に一つも出てこなかったから休みかな、と思ったのだが。
 一人暮らし?
 具合悪い?
 携帯の番号も聞いてなくて何で休んだのか尚に分かるはずもない。
 …学校だけの付き合いだ、気にする事ない。
 そうは思っても大学が始まってから学校内ではほとんど隣にいた存在がいないというのは何となく落ち着かない。

 「今日は相方お休み?」
 あちこちから聞かれても尚に答えようはなくて肩を竦める。
 「尚、よく加々美と一緒にいられるなぁ」
 「あ?なんで?」
 大学に入ってから知り合った奴らも皆、尚と呼び捨てる。高校から知っている奴らがそう呼ぶので自然にそうなっているのだろう。
 学食で飯を食ってたら同じ学部の顔見知りのヤツが隣、向いに集まってきた。

 「いや~、あの顔で睨まれるとなんも言えなくなるし。話しかけるなってオーラが出てるだろう?」
 「…まぁ、多少は」
 それは尚も分かる。いつも一言で会話は終了が多いし。
 「んでも俺、あいつとほんとどこいっても顔合わせるから仕方ねぇんだよな…ホントありえない位一緒」
 それはもう皆に知れ渡っていてぎゃははと笑われた。
 「すげぇよな!」
 一週間でほんの何コマ以外はほとんど一緒だ。
 「だろ?」
 「でもよ…ほんと綺麗だけどあいつ苦手だ」
 一人が呟くとうんうんと他のやつも頷いている。

 「そうか?」
 「…まぁ尚位だったら隣に立ってもいいかもしんねぇけど、普通気後れすんじゃん。人形みたいな綺麗な顔でさ。そんでぎっと睨まれるんだぞ?」
 「睨んでるかぁ?」
 「いや、睨んでるのと違うのかもしれないけど、見られるだけで落ち着かないっていうかさ~」
 …そうかな?尚は首を捻った。
 そこまでではないと思うけど。
 「な~~~お~~」
 またうるさい高校の時の同級生の女登場だ。

 「今日って加々美くん休みなんでしょ?」
 「さぁ?でも見てないな」
 「見てないっていっつも一緒のくせに~!」
 尚の背中に胸を押し付けてくる女に嫌気がさしてくる。
 周りの男達は羨ましそうだが、欲しいなら持って行ってくれって感じだ。
 「私聞いちゃった~!」
 「…何を?」
 ふふ、と厚化粧した同級生の女が嫌味たらしい笑顔を見せた。
 「なんかね、加々美くんって政治家の私生児なんだって~。県議員だかなんかの~。それに、なんか男の人好きらしいよ~。あんな綺麗じゃそれもわかるけど~!尚もアブナ~イ!」

 「……確かにお前よりも美人だな」
 尚が女を睨んで言えば同級生の女がかっと怒りを露わにする。 
 男以下と言われりゃそりゃ怒るだろうが人が山ほど人がいる学食の中で声を張り上げて遥冬の事をこんな風に言う女は最低だろう。
 「男とやりまくりだってよ!」
 「それが?別に俺に関係ない」
 「こっちでもスーツ姿の若いいい男と一緒にいるの見たとか、歳のいったパパと歩いてるの見たとか!」
 「だから!?そんなの人の勝手だろうが」
 スーツの男は尚も確かに見た。
 ただの知り合い、という雰囲気でなかったのは確かだ。

 だからといって遥冬がいない時にこんな事を言い出す女に同意するはずもなく尚は知らぬ振りをする。
 なんだって女ってのは噂とか好きなのだろうか。
 尚は聞いているのが嫌になって女を睨んでそしてさっさと席を立った。
 …イライラして物に当たりたくなってくる。
 そんな尚のイライラを周りも察知したのか、学食を出て行く尚に誰も近づいて来ないのが幸いだ。
 クソ女が。

 ほんの1年前位までその女達にちやほやされいい気になっていた自分はどこにいったのだろうか?
 まだガキだったんだ。
 今は分かる。見える。
 女がまるでハンターのように男を値踏みしているのが。
 自分を見ろ、とアピールしてるか。
 見栄と打算が見え隠れしているのが。 
 純粋な目がある事を知ってからすっかり女を見る目が変わってしまった。

 …そりゃあ千尋でもやられるよなぁ、と尚は岳斗の目を思い出して思わず苦笑を漏らす。
 あの目が自分にだけ向いてるんだから。
 帰りに岳斗のバイト先によるか。
 そういえば遥冬はもしかしたら岳斗のバイト先の近くに住んでいるかもしれない。
 ふっと考えが過ぎったがまさか会うはずもないだろう、と打ち消した。

 
 

テーマ : BL小説
ジャンル : 小説・文学

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