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焔の扉の前。 7

 「ここ」
 「…………尚は僕の住んでるとこを知ってるわけじゃないのか?」
 「は?知らねぇけど?」
 50’Sに案内してきた尚に遥冬が怪訝そうに顔を顰めていた。
 「……ここの裏の通り挟んだマンションだ」
 「……マジかよ?………ま、決まれば好都合だな」
 「ここは…ライブハウス…?」
 「そう。ライブハウスとか行った事あるか?」
 「ないよ。田舎にそんなのない。あったとしても行かない」
 …確かに。

 尚が地下に続く階段を下りていくのに遥冬も後ろから恐る恐るついてくる。
 多分千尋の叔父さんはもう来てると思うけど。
 「こんにちは~…久しぶりです」
 Linxをやめてからは尚もここにも来ていなかった。懐かしい雰囲気。
 奥のスタッフルームから顔を出したのは千尋の叔父さんだ。
 「尚くん!久しぶりだねぇ」
 「ども。千尋の叔父さん、バイトいらないっすか?千尋のかわり」
 「尚くんが?」
 「いや、俺じゃなくて、コイツだけど」

 尚が遥冬の背中を押した。
 「愛想ないけど千尋よりましかな?威圧感ねぇし?」
 ぷっと叔父さんが笑った。
 「助かるよ…。どうしようかと思ってたんだ。…そうだ!尚くんもいいとこに!助っ人でバイトしないかい!?ギターが足りなくて!コピバンのギターがGWまで別仕事で借り出されて今色々とどうするか相談してたとこなんだけど!尚くんやってくれるなら問題ない!」
 「俺~?……岳斗にダメだし食らってるのにぃ?」
 あはは、と叔父さんが笑ってる。

 「岳斗くんは耳よすぎなんだろう?普通の一般人には十分だと思うけど?」
 「……なんかそれも微妙に失礼な気がしますけど~?んでも、俺でいいなら…。どうせGWも暇だし」
 ここでやってる音楽はオールディーズとかで尚も曲は知っているし、弾いた事もある曲ばかりで練習すれば大丈夫だろう。
 「ギターアレンジとか適当でもいいんすか?」
 「いいよいいよ!」
 軽く叔父さんが答えて、ギター見つかった!とすぐに電話していた。
 …決定にされたらしいのに自分なんかで本当にいいのかと苦笑してしまう。

 「なぁ…聞いていい、…のかな…?…チヒロ、ってダレ?」
 「ん、あ?ああ、高校ん時一緒にバンドしてたヤツ」
 「ヤツ?……女性じゃないの、か?」
 「ああん?ちげぇよ!唯我独尊系のオトコ。いや~なヤローだ」
 「……ふぅん」
 「あれはその千尋の叔父さん」
 「ふぅん…」
 遥冬は物珍しそうにきょろりと中を見ていた。

 「…音楽、ここで演奏する…?」
 「そう。生バンド」
 「……さっきの、ギター、って…尚もする、っていう事か?」
 「そう」
 「……すごい、な」
 「ああ?ぜ~~~~んぜん!俺はせいぜいここで出来る位だ」
 思わず尚は自嘲を浮かべてしまう。
 いくら練習したって分かっている事だ。

 才能というものは持って生まれたもの。千尋は勿論努力も練習もしていた。けれどそれ以上に才能というものを持っていた。
 自分らは所詮一般人に毛が生えた程度。
 上手いね、で終了の部類。
 「……尚?」
 遥冬がどうした?といわんばかりの目で尚を見ていたのに尚は肩を竦める。
 「…なんでもねぇよ。でもどうやらバイトもオッケーみたいだな?」
 「……ありがとう」
 「ドウイタシマシテ」

 千尋の叔父さんが遥冬に声をかけ、簡単にこういう事して欲しいんだけど、と仕事の説明をしていく。
 それでもいいか、と問われれば遥冬は頭を下げていた。
 「よろしくお願いします」
 「じゃあ明日にでも履歴書持ってきてもらってもいいかな?」
 「はい。用意して持ってきます」
 「尚くん、助かったよ!ギターもよろしく!」
 「……練習しときます」
 ギターを触ってはいたけれど人前で弾くならちゃんと腰入れてない練習しないととダメだろう。
 どうせ暇はもてあましていたからいいけど。

 「じゃ、尚くんと、ええと…?名前聞いてなかったね」
 「加々美 遥冬です」
 「遥冬くんね。詳しい事は明日説明するけど、来週からでもいいかな?尚くんは合わせの練習しないといけないだろ?」
 「一応…そっすね…したほうが…。いいけどギター、俺レスポールっすっよ?いいんすか?エフェクターで音はいくらか変えても…」
 「いいよいいよ」
 「つうか!ギター叔父さんしたほういいんじゃ?」
 昔ギターでプロとしてやっていた位の人だ。
 「したいのもやまやまだけど、それじゃ店がまわんないしそれにもうしばらく触ってないから…」
 そっか…。
 「………がんばります」
 「期待してるよ?」
 う、っと尚は詰まってしまう。これでしばらくぶりに真面目にギターの練習しないといけなくなってしまった。
 
 
 
 

テーマ : 自作BL小説
ジャンル : 小説・文学

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