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立ち上る焔。 3

 尚の練習が終わったと同時にドアがあいて岳斗くんがまた来たのに遥冬はどきりとした。
 「こんにちは~!あれ?尚先輩?」
 「おう、岳斗」
 ぱたぱたと岳斗くんがステージの尚に近づいていった。
 「なにしてるの~!?ギター?演奏するの?ちゃんと練習した!?」
 「…………ホント失礼なヤツだな!」
 尚が岳斗くんの頭をぐりぐりと拳骨で押し付けている。
 「ちゃんとしたって!な?遥冬。間違ってねぇだろ?」
 「………さぁ?僕は音楽はあんまり詳しくはないから分からない」
 遥冬は目も二人に目も向けないで仕事を続けた。

 「ほら!あんまよくなかったんだよ!よかったら目離せなくなるはずだもん!」
 「…うるせぇぞ!」
 「いて!」
 尚と岳斗くんがじゃれてるのに遥冬は苛立つ。
 弾いてる間ずっと尚から目を離せなかった。
 …そう言えばいいのに。
 「オメーは配達の途中だろ。ほら、行け!」
 「あ、そうでした!ええと、遥冬さん…これ、いいですか?」
 「あ、ああ」
 岳斗くんが遥冬の所に品物を持ってきたので遥冬は受け取り、伝票にサインする。
 「じゃまた来ますね~!尚先輩はちゃんと練習してね!」
 「うるせぇ!早く行け!」
 バンドの人達も笑っている。

 岳斗くんがいるだけで場がぱっと明るくなるんだ。
 遥冬が黙々と仕事を続けていると尚が隣に来た。
 「なぁ?俺ダメ?」
 「…何が?」
 「ギター…。遥冬から見てもダメダメか?」
 小さな声だ。尚がこっそり確認に来たらしい。
 「……だめじゃない…。僕からしたら…すごい、と思う」
 どこか消沈したような尚の言い方に遥冬は仕事を続ける振りをしながらそう答えた。
 「……ホントか?」

 尚が嬉しそうな声になったのにぱっと遥冬が顔を上げたら尚の顔が目の前にあって、嬉しそうににっと笑っていたのに遥冬はちょっとどきりとしながら頷いた。
 「あ、ああ…」
 「かっけぇ?」
 「………それは調子乗りすぎ」
 「ちぇっ!」
 …嘘だ。かっこ、よかった、と思う。
 でもそんなの言えるか。
 「尚くん!ちょっといいかい?」
 オーナーに呼ばれて尚がはい、とスタッフルームの方に消えたのに遥冬はほっとした。

 どうも自分の中がおかしい事になっている。
 尚と岳斗くんが仲よさそうにしているのが面白くないらしい。
 学校で尚が誰かと話してもこんなふうに苛立ったりはしない。
 それがどうも岳斗くんには違う。
 あの子が遥冬にはないものを持っているからだろうか。
 およそ自分とは正反対の雰囲気だろう。
 あの子が春のように暖かな雰囲気なら遥冬は冬の寒々しい雰囲気だ。
 笑顔が可愛い岳斗くんと笑顔なんて出せない自分。
 今までそれを気にした事などなかったのに。

 尚が…。
 尚が岳斗くんを見る目が優しいから、だ。
 たまに学校でも尚は自然に表情が弛んでる時がある…。その時と同じ顔を岳斗くんに向けてるんだ。
 学校でのあの表情の時は岳斗くんを思い出してる…?
 ………別にだからって遥冬には関係のない事だ。
 それなのにさっきの尚と岳斗くんの仲よさそうな会話や態度が遥冬の頭の中を侵食している。
 「……?」
 ちょっと待て、と遥冬は頭を抱えた。
 そして、いや、と頭を振る。
 まさか…な…。
 そういえば尚は自分から部屋にもあげたんだ。

 「まさか…」
 思わず小さく呟く。
 「なにがまさか?」
 尚の声に遥冬はびくんと身体を揺らした。
 「…驚かすな」
 「あ?遥冬ってちゃんと呼んだけど?」
 「……聞こえてなかった」
 「なぁなぁ~!遥冬さ~ん…」
 「………なんだ、気持ち悪い」
 尚が遥冬の肩を組んできたのに動揺した。
 「あのさ!お願いあんだけど?」

 「……なに?」
 「GW中、泊めてくんねぇかな?お前、実家帰らないでバイトなんだろ?俺もほら、ギター頼まれちゃったし!それはいいんだけど、ステージ終わる頃ってもう電車ないんだよな…だからGW中遥冬んチに泊めてくんねぇかな…と思ったんだけど?都合よすぎ?ダメ?」
 「……ダメって言ったらどうするんだ?」
 「う~~~ん…チャリ?だっせ~~~~!」
 あははと尚が遥冬の耳元で笑っている。

 「……いいよ。別に。誰が来るわけでもないし」
 「ホント?あ、誰か来るなら俺出てるし」
 ぶっきらぼうでつっけんどんな言い方になったのに尚は全然気にした様子もなく、普通に会話を続ける。
 「いい。誰も来ない」
 なにしろあそこに誰か入ったのは尚しかいないんだ。
 「やり!まじ!?助かります!よろしくね~!遥冬さ~ん」
 「…調子よすぎだ」
 むっとした顔で遥冬は言ったけれど、内心はちょっと動揺していた。
 一緒に?マンションに…?
 どう、なるのだろう、か…?
  

テーマ : 自作BL小説
ジャンル : 小説・文学

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