自分はもしかして、と思いつつ遥冬は平静を心がけて尚に接していた。
バイトの時が一番落ち着くかもしれない、と思ってしまう。
「お疲れ様です。すみません…お先します」
「はい、お疲れ様」
バイトを終え、オーナーに挨拶して遥冬は50’Sを出る。
すぐマンションについて部屋に入ると携帯がなった。
「もしもし。変わりはない」
定期連絡に遥冬は溜息を漏らす。
「何かあればこっちから連絡するからいらない、って言っているだろう」
『いえ、一応は。遥冬さん、GWは?』
「帰らない。その方がそっちには都合がいいだろう…。ああ、と…28日から以降GW終わるまでは連絡なしだ」
『どうしてです?』
「バイトだ。あと…友人が来て…泊まる事になってる」
『ご友人です、か…?』
「友人というのも微妙だが…。バイトもそいつに紹介してもらったから…無碍にも出来ない…」
遥冬は尚の事をなんと言っていいのか逡巡した。
『……遥冬さんが尚、と言った方ですか?』
「そう。入学式の日に水野も見てるだろう?」
『ああ。彼ですか…。お名前は?』
「井上 尚だ」
『分かりました。ではGW中は極力連絡は入れないようにしますが、心配ですのでやはり二日か三日に一度は入れるようにします』
いらない、と言っても聞きそうにない水野に遥冬は溜息を吐いた。
「僕に構っているとまた兄さんの機嫌が悪くなるだろ」
『遥冬さんが気にする事ではありませんので。これは仕事ですから。それでは…』
「………」
業務連絡終了だ。
毎日ご苦労な事だ。家でなど誰も遥冬の事など気にしてなんかいないのに。
ふぅ、と息を吐き出し、遥冬はシャワーに向かった。
あやふやな気持ちのままGWに突入。
いや、あやふやでもないか…。
そう思いながらも遥冬は尚と待ち合わせの場所に向かった。
地元ではなくあまり地理に詳しくない遥冬の為に改札口まで尚が来てくれる事になっていた。
大きなデパートや店が並ぶ大きな駅だ。
いつもは学校とマンションの二駅の行き来だけで、自分で出かける事も遥冬はしなかった。
元々地元にいた時だって出かけるなんて事はしなかったけれど。
「遥冬!」
改札口を通るとすぐに尚が遥冬を見つけて隣に並んだ。
GWだからか大きな駅で人が多いが、その中でも尚は人目を引いて目立っていて遥冬もすぐに見つけられた。
背も高いしモデルみたいだから周りの人もちらちらと尚を見ている。
「…お前目立つなぁ」
「は…?」
尚が遥冬を見て苦笑した。何言ってるんだ?目立つのは尚の方だろうに。
「ま、いいや。さて…どこいこっか?」
「……さぁ?」
「行きたいとこは?」
「……特にないけど?」
だいたい遊ぶって何するのかよく分からない。
「う~ん……なんだろうな?とりあえず歩いてくか?」
こくりと遥冬が頷き尚と並んで歩き出す。
「……店が…すごいな…僕んとこは田舎でホント何もなかったから」
あったとしても出かけるなんてしなかっただろうけど。
「そうか?……あ、ゲーセン行くか?」
「…行った事ないけど」
「ない~?よし!じゃ、やっぱいくか!」
ぐいと尚が遥冬の腕を掴まえて引っ張ったのに遥冬は少し動揺したが、尚は全然気付いてないらしいのでほっと安堵した。
迷子になるとでも思ってるのか、尚に腕を捕まれたままゲームセンターに連れられていき、中に入ると小さい子までいるのに遥冬はえ!?と驚いてしまう。
親子できているらしい…って当たり前だけど。
音楽がなってあちこちで色々な派手な音がする。
それに人が多い。
人が多いのはGWなのでどこにいってもだろうけど。
「何する?って聞いても分かんねぇか」
「分からない。尚がなんかしてみせて?あ…、なぁ?あれは?」
遥冬が見つけたのはギターもって演奏するゲームだった。
「え~…俺ゲームは苦手なんだよな…。本物のほういいし」
そう言いながらも尚が挑戦するのを遥冬は眺めた。
確かにやりづらそうにしているのに何が本物と違うのか遥冬にはよく分からない。
「やっぱダメ!それよりいいのあった!ほら、こい」
また腕を引っ張られて連れて行かれたのか太鼓が二つ並んでるゲームだ。
「これならお前でも出来る」
「…いいよ」
「いいから」
順番待ちの間中遥冬はした事もないのに、とどうやって断ろうかと何度も拒否したけど尚に押し切られてしまった。
テーマ : 自作BL小説
ジャンル : 小説・文学