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立ち上る焔。 7

 初心者の一番簡単な曲を選んで、尚に教えられながら進める。
 「あ!間違った!」
 「だから、そこは横叩くんだって!」
 「あっ!」
 「おま、反応おせ!」
 「うるさいっ」
 こんなの初めてした!
 遥冬には珍しく大きな声を上げて腕を思い切り振って。

 「うわ!だっせ!点数低っ!」
 「初めてなんだっ!」
 ゲームを終わって点が出たのに尚がぶっと笑ったのにその尚の背中をどんと遥冬が叩く。
 「うわ、暴力!」
 「うるさい!」
 そう言いながら遥冬は楽しい、と思った。
 「あ、上にダーツあるんだ。行くか?」
 「…やってみたい」
 初めての事でも尚はバカにしない。からかっては来るけど、でもそれに対して今まで何してきたか問うわけでもない。
 それが居心地がいい。
 
 「構えてみ?」
 「こう?」
 「いや、なんか変だな。手はこう…」
 構えた遥冬の格好を見て尚が手を遥冬の身体に触れて体勢を直していく。
 「顎あげすぎ」
 くいと顎も下げられたけど…。尚の顔が近い。
 じっと一瞬視線が絡んだがふっと尚が視線を逸らした。
 「…それでやってみ?」
 言われた通りに矢を放ると的に吸い込まれるように真ん中に刺さった。

 「尚!ほら!」
 「はいはい!教え方がいいからだ」
 「そうじゃないだろ!」
 思わず喜色が浮かんで尚の服を引っ張る。
 「次俺な」
 尚が真剣な顔をして的を睨んでるその横顔に思わず遥冬は見入ってしまう。

 いつもふざけた感じなのに…。
 学校でもいつもやる気なさそうな感じだし。
 いっつもそんな顔してればいいのに。
 いや、そうするともっと人目を引いてしまうのか?
 今も周りで女の子とか遠巻きに見ている。
 すたっと綺麗に的に矢が突き刺さった。
 「ど?」
 「…一緒だろ?」
 綺麗に遥冬の放った矢に重なるように尚の矢が刺さっていた。

 「ねぇ…」
 女の人の声に遥冬と尚は一緒に振り返った。
 「私達二人なんだけど。一緒に…」
 「いらねぇ」
 尚がきっぱりと断っていたのに遥冬はほっと安堵した。
 人も苦手だが、女は特に苦手だ。
 「邪魔しないでくれる?」
 尚がそう言いながらにやりと笑って遥冬の肩を組んできたのに遥冬は驚いた。
 「や…!まじ…?」
 女の子二人は声を上げてすぐに走って去っていった。

 「…尚…いいかげんにしろ」
 ぴっと遥冬は尚の腕を振り解いた。心の中で動揺しているのは内緒だ。
 「いや~だって面倒だろ。これ一番いいな…」
 くくっと尚が笑っている。
 尚にとったら断る手段だけだろうけど…。
 「あ、遥冬さんは女の子と一緒のほうがよかった?」
 「いらない」
 「ならいいだろ」
 また尚が笑っている。尚は何がそんなに楽しいのだろう?
 遥冬は初めての事ばかりだから全部が真新しくて興味が引かれるし面白いと思うけれど。

 ダーツして今度はクレーンゲームに行った。
 「これは遥冬は無理かな…」
 「…見てる」
 尚が金をつぎ込んでぬいぐるみを狙う。
 「一回だけやってみな?多分無理だろうけど。5回出来るから。まずここで位置移動して…」
 「あ!おしい!」
 引っかかったけど途中で落ちてしまう。
 「ほら」
 尚がやったように真似してするけど、全然かすりもしない。
 「…やっぱこれは難しい」
 「見てろって」
 尚がそう言って狙いを定めてクレーンを動かすとすぐに掴まえられて物が落ちてきた。

 「わっ」
 「な?俺わりと得意だし」
 尚が景品取り出し口から掴むとはい、と遥冬の胸に押し付けてきた。
 「どうぞ?今日の記念に!はじめてのゲーセン記念」
 ぷぷっと尚が笑ってる。
 「………どうも。………取ったコレってどうするんだ?」
 「どうもしねぇよ?こんなのに金使って馬鹿だな~と反省するだけ」
 「…は?」

 一瞬遥冬はきょとんと呆ける。
 「だってバカだろ?こんなのに何千円もかけるの。買った方安いって!絶対!ま、俺はそんな金かけねぇけど」
 遥冬ははっ、と声を上げて笑った。
 「確かに!無駄だ」
 「だろ?なんの役にも立ちゃしない」
 口を抑えて遥冬が笑った。
 小さな、アニメのキャラクターだろうのぬいぐるみ。たいして可愛いのでもない。
 「ありがとう。一生の宝物にするよ」
 笑いながら遥冬が言えば尚が嫌そうな目で遥冬を見ていた。
 「…それはヨカッタデスね」
 その尚の返事にまた声を立てて笑ってしまった。
 
 

テーマ : 自作BL小説
ジャンル : 小説・文学

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