--.--.--(--)
上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
2012.09.10(月)
「前評判がすごい事になってる」
生方と打ち合わせ。
最近は生方との打ち合わせは明羅の学校が終わる時間前になっていた。
明羅は迎えに行くと言ってもすぐ遠慮するから、打ち合わせの帰りだと言えば頷くのに毎回そうしていた。
生方が出来上がったCDを出してきて渡された。
「前評判?」
「そう。二階堂 怜がって。…お前人気あったのな?」
怜は肩を竦めてCDを見た。
明羅が選んだ写真。
作曲に桐生 明羅の名前がある。
「…前評判って、俺はいいが…明羅は大丈夫か?」
「顔出しNGにしてあるけど…。桐生 佐和子と博の名が出るのもすぐだろうな。お前と組んで余計騒がれるかも」
怜は心底嫌そうな顔をする。
「一応ご両親にも連絡はいれてあるけど。お二人とも外国だし。まぁ大丈夫かな」
「…だといいけど」
「今は二階堂 怜の名前だけが走ってるがアレ聴いたら明羅君も…」
「余計な騒がれようは抑えてくれ」
「…無理言うなよ。それだったらお前の親父さんに頼んだ方がいいぞ。各界に顔が効くだろう?」
「………」
怜はまた嫌そうな顔をしたがちょっと考え込む。
明羅の事を考えれば嫌でも頼んだ方がいいような気がしないでもないが、やはり父親と相容れないとは思う。
桐生佐和子の息子と知ってちょろちょろ明羅に接触しようと目論んでいるらしいが、傍に怜か宗がいるのに諦めているらしい。
そんな暇があったら家に帰る時間があるだろうに。
仕事と自分の興味が向いた所になら時間を割くがそれが家には向かないのだ。
怜は腕時計を見る。明羅の授業の終わる時間が近づいてくる。
「じゃ」
怜は立ち上がった。
「明羅君のお迎え?」
「そ」
生方がげしゃげしゃと笑った。
「メロメロだねぇ」
「…ほっとけ」
笑っている生方を置いて怜は駐車場から車を出した。
「うわっ!!」
CDを受け取って迎えに行くと言ってあったので明羅は授業が終わると走って車までやってきたらしい。息が上がっている。
顔を紅潮させてCDを見て怜を見た。
「ね、1枚」
「どうぞ。10枚もよこしたから」
宗にやるのだろう。
「ちょっと待ってて」
明羅は1枚を持ってまた学校に戻っていった。
バックミラーを見ているとすぐに宗と話しながら明羅が戻ってくる。
二人が並んでいれば高校生で…。
怜は自分の心の狭さに頭を抱え込みたくなった。
嬉しそうに明羅が車に戻ってきて乗り込み、宗が左ハンドルの怜の脇に立ったので窓を開けた。
「貰っていいの?」
「どうぞ。俺じゃなくて明羅からだから」
「?」
宗が怪訝な顔をする。
「作曲者の所」
宗がCDのジャケットを見て目を見開いた。
「桐生?」
怜が頷いた。
「宗は興味ないかもしれないけど」
明羅はつんと顎を反らせながら言ったのに怜は苦笑を浮べた。
「…いや、帰ったら早速聴いてみる」
じゃ、と宗は車から離れて、明羅はいそいそとCDを1枚取り出した。
「かけていい?」
「どうぞ」
カーナビにCDを差し入れ音が鳴り出した所で車を出した。
家に帰って来ても明羅はCDを眺めて顔を弛ませていた。
「すごいねぇ」
すごいのはお前のほうだろう、と言ってやりたい。
「ねぇ、コンサートの曲は?」
「ああ、さすがに決めないとな…。印刷の関係もあるし」
それも生方に言われていた事だった。
「CDからは<ハッピバースデイ>と<エロワルツ>は確定だな。あ、<エロワルツ>はアンコールにしよう」
すっかり怜と明羅の間では曲のタイトルはコレになっていた。
「エロ、言わないで欲しいんだけど…」
明羅はいつも困った顔で、それを見るのが楽しい。
「一部にクラシックもってきて二部が小曲とソナタかな。クラシックは何がいい?」
明羅がクラシックが聴きたいと言っていたのでクラシックも入れないと。
「何でもいいけど…怜さんは?」
「俺は特に?お前の聴きたいので」
「え~~!ラフマニ!と言いたいけど…アレは俺のだから人前で弾いちゃだめ」
怜は、は?ときょとんとして明羅を見た。
「だって俺にくれるって言ったでしょ?」
可愛い主張に怜は噴き出した。
「好きなように」
笑いが漏れる。
「熱情…カンパネラ…リベルタンゴ…」
「情熱的だね?」
「クリスマスだし?ああ、バッハもいいね。最初バッハから荘厳な感じで入って…ショパンは…ポロネーズ系も華やかでいいかなぁ…」
明羅の顔が紅潮してくる。
「最後は、<エロワルツ>」
「あの弾き方はだめだからねっ!!」
明羅の顔が真っ赤になったのに怜はやっぱり笑ってしまった。