ぜってぇやばいって!
尚は風呂から上がってきた遥冬にどうしても視線が向いてしまう。
昨日自分の家に泊まった時もヤバイとは思っていたけど、自分の家だったし、何となく自制心が働いていた気がするけど、今は遥冬のマンションで二人っきりだ。
シャワーを浴びた遥冬は仄かに頬が上気して髪がしっとりと濡れ、唇も紅い。
前みたいに人形のように表情がないなら尚も何とも思わなかったかもしれないが、今は遥冬はうっすらと笑みを浮べているように見える。
それがまたどうにも目を惹かれてしまう。
アルカイックスマイル…。
思わずそんな事を思ってしまう。
それに…それが向けられるのはどうも自分限定のようで自分は遥冬のかなり内側に入っているらしい。
「は…」
遥冬、と呼ぼうとしたら遥冬の携帯がなった。
こんな真夜中に?
もう夜中の二時を過ぎてる。
「ごめん、ちょっと…」
遥冬がそう言って電話に出た。
「もしもし。ああ…さっき帰ってきた。連絡はいらない、と…」
誰だ…?
聞こうか、とも思ったが関係ないだろ、と言われそうでもあるのでやめとくに限る。
最初の頃ならいざ知らず、さすがに今それを言われれば多少は凹む気がする。
いくらか自分に対して遥冬は打ち解けてきたが実際の所、尚は遥冬の事は何一つ知らないのだ。
知っているのは大学での遥冬と、ほんの少しのプライベートだ。ただそれも今のであって過去遥冬の事はまるで何も知らない。
…別に知らないからっていいだろう、と尚は自分で作ったチャーハンをかき込んだ。
電話はすぐに終わったらしく、遥冬は電話を置いてまたチャーハンに口をつけていた。
尚が知っているのは入学式と遥冬が休んだ日に一緒にいるのを見かけたスーツの若い男だ。
…電話はアイツだろうか?
あの男は一体遥冬の何なのだろう?
今の電話の言葉を聞くと遥冬に遠慮したところはないらしい。
…なんでこんなに気にしてるんだ?
ずっと電話と、見かけた男の事を気にしすぎていたのに尚は気にするのをやめようとした。
食べ終えて器を下げ、さっと食器を洗う。
「シャワーどうぞ。シャンプーとかも好きに使っていいから」
「悪い。じゃ借りる」
遥冬に声をかけられて尚は風呂場に向かった。
タオルとかは持参してきていたのでそれ以外は遥冬の言葉に甘える事にする。
ちゃんとボディソープとかもあるしやっぱりここで生活しているんだろうけど、全然そんな風には感じない。
寝室は見てないけれど、寝室位はさすがにいくらか気配はあるのだろうか?
また遥冬の事を考えているのに少々温すぎるお湯をかぶる。
頭の中を少し落ち着けた方がよさそうだ。
こんな立派なマンションで一人暮らし。
親に出してもらっているような事は言っていたが、それでよしとしないでバイトまでしている。
あのスーツの若い男と歩いていたのを見たのは二回。
岳斗のバイト先でここから近くの。
…どう考えたってあれは遥冬のこの部屋に向かっている所だったのだろう。
あの男もここに来る?
でも遥冬は誰もここには来ないと言っていた。
だから尚が泊まっても問題ない、と。
…でもさっきの電話があの男ならば、わざわざ遥冬のバイトの終わる時間を見計らって確認の電話を入れてきたのだ。
遥冬のバイトの終わる時間もちゃんと知っているという事だ。
今まで遥冬の携帯が鳴っているのを聞いた事はなかったけれど、時間を把握している位アイツは特別なのだろうか?
すっかり尚の中でさっきの電話はスーツのあの男からのものになっていた。
「…気にしすぎだろ」
ぶるっと尚は頭を振って尚はシャワーを止め、風呂場を後にした。
「あっち~」
上半身裸のまま上がると遥冬もすでに食べ終えて片付けも済ませていたらしい。
リビングでソファに座ってぼうっとテレビを見ていた。
「遥冬、寝ててよかったのに。俺は適当にソファででも寝るし」
「…そう?」
「ああ」
がしがしとタオルで髪の毛を拭きながら尚は頷いた。
「…本当にソファでもいいの?」
「別にいいけど?布団ねぇって言っただろ?」
「言ったけど…」
なんだ?そこ気にしてたのか?
「ホント気にしなくていいって。無理言ってんのこっちだし。何?遥冬のベッドにでも入れてくれるのか?」
わざとそんな事言ってみたり。
「……その方がいいなら別にいいけど」
はい!?
冗談で言ったのに遥冬が真面目な顔で頷いたのに尚の方が驚いてしまった。
テーマ : 自作BL小説
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