GWのバイトの間中、尚はずっと遥冬のマンションにいて、本当に一日中ずっと一緒だった。
二日ごとに尚に抱かれ、バイトの休みの日曜の前には夜も、さらに起きてからも、獣のように交わった。
尚はいったいどんなつもりでセックスしているのだろうか…?
遥冬はついそんな事を気にしてしまう様になっていた。
ただ一度抱かれるだけでもよかったはずなのに…。
毎日色々な思いが遥冬の中で交錯していた。
尚を欲しいと思ったり。
身体だけでもいいと思ったり。
捕まえればいいんだ、と思ったり。
離してやれ、と思ったり。
とにかく一刻ごとに思いが変化してしまうんだ。
自分がこんな事になるなんて本当に思ってもいなかった。
だって…尚が…。
バイト中でステージでギターを弾いている時もいつも尚が遥冬を目で追っているのが分かった。
そして遥冬の部屋に帰れば抱かれるか、抱かれなくとも尚は遥冬を抱きしめキスするんだ。
一緒のベッドで寝て、目覚めれば尚がいつも遥冬を抱きかかえている。
一番初めの日、夜中目を覚ました遥冬は自分から尚の胸に縋り、そしてもう一度寝た。
朝起きて尚は驚いていたようだったけれど、それで意識すればこっちのもんだ、とも思った。
自分から誘うように尚に手を伸ばしたのも。
全部、遥冬からし掛けた。
それなのに…。
今のコレはなんだ?
まるで恋人同士のような毎日。
GW期間だけだというのに。
遥冬の部屋に色濃く尚の存在が残りつつある。
洗面所には歯ブラシが二つ。
使った事のなかったキッチンも尚にあれこれと教えられていくらか遥冬も出来るようになった。
使ったあとのあるシンクも尚が来なければなかった事だ。
尚の荷物にタオルに着替えに…。
あちこちに尚の存在がある。
…どうしようか?
GWが終わって一人になるのに…。
いや、いつもに戻るだけだ。
きっと尚だって来なくなるだろう。
尚がシャワーに行っている間に電話がなった。
毎日なっていた電話だったが、尚がいる今は日を置いてかかってくる。
「……はい」
『お変わりありませんか?』
「ない」
『お友人は?まだいらっしゃる?』
「いるよ、今シャワーに…ああ、上がってきた」
『夜までのお仕事はキツくはないですか?』
「別に。平気だ」
尚は黙ってソファに座っている遥冬の隣に座った。
「いちいち変わりないのに連絡はいいと言っている」
『ですから、私もそういうわけにはいきませんので。ではまたご連絡さしあげます』
遥冬ははぁ、と溜息を吐き出しながら電話を切った。
「……誰、と聞いてもいいのか?」
尚が始めて口を開いた。今までずっと何も聞いてこなかったのに。
「誰、と問われても…どう答えていいのか…」
家族じゃあない。家の財産の管理者。兄のお相手。遥冬の目付け係り。
…どれも普通じゃおかしい気がする。
「…答えられない、か?」
「まぁ、そうだね」
遥冬が頷くと尚が微妙な表情を浮べていた。
「何?」
「いや…」
ああ、尚は何か誤解しているのかもしれない。
それならそれでいいのかも…。
尚は入学式の日に水野を見ているから聡い尚は電話が水野からだと察しているのだろう。
いずれ尚と離れるなら誤解されていた方がいいかも…。
そう思いながら違う、と否定したくもあるんだ。
どうにも遥冬の胸中が複雑だ。
否定したとしても別に尚とは恋人同士でも何でもないんだ。尚にとっては欲望のはけ口でしかないだろうからそのままにしておいた方が尚にとってはいい。
今はきっと尚に彼女もいなくて、溜まってて、そこに遥冬が誘惑したのに乗っかっているだけだ。
このままでいい。
遥冬は表情を変えずただそこにいた。
「尚くん!GW終わっても土曜だけ助っ人に来ないかい?」
「え?」
ステージを終え、客も引けた後に尚がバンドの人に話しかけられているのを遥冬は片付けをしながら聞いていた。
「いや~ウチのギターが今行ってるとこでしばらくしてくれないか、って頼まれたらしいんだけど、土日なんだよね。ずっとという訳ではないんだけど」
「…いいっすよ。いいけど…遥冬!泊めてくれる?」
遥冬は尚に呼ばれ、テーブルを拭いていた顔を上げて小さく頷いた。
「ならオッケーっすよ?」
「よかった!」
遥冬は再び顔を俯け、仕事の続きを黙々とする。
…毎週…?土曜は尚が泊まる…?
遥冬は顔が緩まないように殊更口を引き結んだ。
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