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熱視線 1st Anniversary 1

<注意>

 熱視線 の続きになっております。
 未読の方は 熱視線 熱吐息 をお読みになってから
 お進み下さいませ(><)

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 7月のコンサートが終わった。
 怜さんと一緒にいるようになって1年経ったんだ。
 去年の怜さんのコンサートが終わってそのまま怜さんちに連れられてきて、そこからは怒涛の一年だった気がする。

 真面目に作曲した曲を怜さんが気に入ってくれて、クリスマスにもコンサートして、その後も協奏曲までなんて。
 去年の今頃は進路どうしようなんて思ってたのに何故か今は作曲の方で依頼が来るようになって。
 そしてこうして毎日怜さんのピアノが聴けてるなんて。

 なんて贅沢なんだろう。
 怜さんが指慣らしのハノンからツェルニーを弾いているのをソファに沈みながら明羅は聞いている。この時間が至福の時だ、と明羅は毎日思ってしまうんだ。
 追い求めてきた音が今は明羅だけが好きに聴く事が出来るのだから。

 「う~~~~~ん…」
 その怜さんが唸ってピアノの蓋を閉めてしまった。
 「え?どうしたの?」
 「ノらない」
 「…コンサート終わったばっかりだから?」
 「多分な。今回のは特に俺にとっちゃ正念場だったから…。明羅にダメだし喰らわないか戦々恐々だったし。それで気ぃ抜けた…かなぁ?」
 「ダメだしなんてあり得ないのに…怜さんのピアノは特別。今のハノンとツェルニーだっていいからずっと聴いてたい位なのに」

 怜さんの音だったらつまらないと言っていい曲だって全部が違って聴こえる。
 「怜さんの弾くハノンは…ツェルニーもスケールもキラキラしてる。俺弾いたって練習!ってしか聴こえないのに、怜さんが弾くと綺麗な曲になってるんだから…ずるい」
 「そうかぁ?俺は練習にしか自分じゃ聴こえないけどなぁ。…それよりホント乗らねぇ…気分転換に明羅二台ピアノしない?明羅くんち貸してくれないかなぁ?」
 「ウチは誰もいないし別にいいけど…本気?」
 「本気。なんか全然弾く気湧かない…」

 それは困る!
 最近は怜さんの前でも少しずつ明羅もピアノを弾くようにはなってたからそれはいいけど。
 「じゃ、行こう!」
 怜さんがさっと立ち上がって明羅の腕を引っ張り本当に車に乗り込んだ。
 「ホントの本気?」
 「そ。明羅付き合ってね」
 「……怜さんのやる気出るなら勿論付き合うけど」
 「うん。一時的なもんだろうけど」
 コンサートに熱を入れて随分練習しているとは思っていたけれど、そんなに?

 「今回はほんとプレッシャーが一番大きかったかも…。明羅に捨てられるのが怖くて」
 「あのね!なんで俺が捨てるの前提!?」
 「だって~…明羅クン怖いから~。なんなのあの弾き方!?とか言われたら俺廃人になってしまう…」
 「……そんな事一度だって言った事ないのに」
 「ないけど…いつ言われるか分かんないだろ?」
 「言いません!」
 ホント怜さんは全然分かってない!
 ただの何も考えてないで弾いてるピアノだってそれが怜さんが弾いてるなら怜さんの音なのに。

 そのまま家の者が誰も住んでいない桐生家に着いた。
 家の者は住んでいないけどいつ両親が突然帰ってきてもいいように管理している木田さんと何人かの使用人は住んでいる為、いつでも広い家は綺麗に保たれている。
 「ピアノ弾きにきた」
 「すみません」
 怜さんが木田さんに頭を下げている。
 「どうぞ。折角のピアノが弾かれないのは可哀相ですから」

 確かに…。あんなに毎日明羅が弾いてきたピアノなのに怜さんの家に行ってからはほとんど弾いてない。
 怜さんと一緒にピアノの部屋に行く。
 前のここで弾いたのは両親がいて明羅が協奏曲を作った時だった。
 もう何ヶ月も前の事だ。
 夏休みなんかそれこそ毎年一日中ずっと弾いてたといっていい位だったのに。
 明羅はいつも自分が弾いていたピアノの前に座ってピアノをそっと撫でた。
 毎年夏休みはずっと明羅に付き合ってきたピアノだ。
 不思議で仕方ない。あんなに切羽詰ってた思いが怜さんが横にいてくれるだけで全然なくなってしまったのだから。

 今は純粋にピアノがやっぱり好きだ、と思える。
 きっと好きじゃなければあんなにずっと弾いてばっかりもいられないだろう。そして自分が弾いて満足できない分は今は全部怜さんが与えてくれるんだ。
 それなのにプレッシャーとか、捨てるとか!
 怜さんの音があるだけで明羅は幸せなのに…。
 ホント、全然分かってない!と思ってしまう。

 ピアノが2台、隣同士に並んでいる。
 母親が日本に帰って来た時にレッスンする時の為だ。
 その一台の前に明羅が座り、もう一台の前に怜が座った。
 

テーマ : 自作BL小説
ジャンル : 小説・文学

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