はのんのBL部屋

　「明羅の家行く前にちょっと寄るとこあんだけどいい？」
　翌日も二台ピアノを弾きに明羅の家に向かうため車に乗ると、怜がそんな事を言うのに勿論、と明羅は頷いた。

　そして連れて行かれたのはとある店。
　「いらっしゃいませ」
　そして明羅が店の人にこちらへ、と案内され、連れて行かれる。
　「え？ちょ、な、何？」
　「採寸してもらって？」
　「採寸？なんで？」
　「4日のため」
　にっこりと怜さんが笑みを浮べた。

　4日は一日怜さんにあげるといったからいいけど…。
　ここは高級スーツが並んでいる店だ。
　「スーツならいくつかあるよ？」
　「いいから。黙って採寸」
　怜さんのにこやかながら明羅に拒絶を言わせない顔にちょっと睨む。
　「なんでもいう事聞いてくれるって言っただろ？」
　「言ったけど、今日はまだ4日じゃないでしょ」
　「4日のためだからダメ」

　まぁ、店が店だからスーツかな？と明羅はフィッティングルームで大人しく店の人にされるがままにする。
　大人しくするけど、怜さんの誕生日なのに明羅が採寸っておかしいと思うんだけど…。
　何計画してるんだろう？
　高級ディナーとか？
　でもそれならわざわざスーツ新調しなくたっていいのに…。
　そう思いながらも怜さんの言う事をなんでも聞くといった手前黙っておく。

　指輪に腕時計に。
　明羅なんていっつも曲ばっかだし、今回の誕生日のプレゼントだって瑞希さんと行った時はイイ！と思ったけど………なんか怜さんに貰っているものと比べたらイマイチな気がしてきてしまう。
　だいたい自分の誕生日なのに明羅の採寸ってのがおかしい。
　何を言ったって怜さんは聞いてくれなさそうだから諦めるけど。
　ホント感覚おかしいと思う。
　細かいオーダーメイドなのか隅々まで計られてそれで終了らしい。
　終わるとそのまままた明羅の家へ。
　そしてまた並んで2台ピアノ。
　昨日と同じ曲も弾いたし、他にも色々弾いた。

　「明羅、曲ってどれ位で出来そう？」
　「どうかな…そんなかかんないと思うけど」
　4日まではあと1週間ちょっとあるし全然余裕。
　「出来たらすぐちょうだい？」
　「え？怜さんの誕生日にじゃなくて？」
　「だって弾きこまないと。それに2台ピアノだとウチじゃ出来ないし」
　「そうだね…。でも別に弾きこまなくたって」
　「いいのいいの！だって折角の明羅の曲だからやっぱ弾きこみたいし」
　「……そう？」
　「そうそう！」
　明羅の曲だから、と言われるのは嬉しい。

　「じゃあ早めに仕上げる」
　「うん。楽しみだな…早く弾きたい」
　「まだ出来てもないのに」
　怜さんにそんな事言われたら頑張るしかないでしょ。
　明羅は明羅に出来る事をいくらでもしてあげたいんだから。

　怜さんは自分の波が乗らないのを4日までともしかして決めているのかもしれない。
　基本ピアニストは孤独だと思う。
　ステージ上でも一人。練習もただ黙々とするだけ。
　それで観客に向けて弾くのはワンステージのみ。
　特に怜さんはツアーなんて組んでないから本当にワンステージの為だけに練習なんだ。
　ステージでのプレッシャーはきっとピアニストにしか分からないだろう。
　いつまでも2台ピアノで明羅と遊んでいるわけにはいかないだろうから…早く仕上げて怜さんに満足してもらわないと！
　明羅は心の中で頷いた。
　
　怜さんに満足して欲しいけど、自分でも満足いく出来じゃないと恥かしくて怜さんには渡せない。
　怜さんに付き合って明羅の家にピアノを弾きに行く時以外、明羅はＰＣの前に向かう。
　怜さんの誕生日だ。
　初めて会った時からは10年を越して、そして一緒にいるようになって1年。
　明羅の追い求めた音を持つ怜さんと自分の為だけの2台ピアノ。
　怜さんの為に作る曲はどれも特別な思いが湧く。

　バースデイも指輪も。そう。始まりは怜さんの誕生日の為に作ったソナタが発端だった。あれから1年…。
　今作っている2台ピアノの曲も特別にしたい。
　怜さんが大切に思ってくれるような曲に。
　…始まりは決まってる。
　プリモは勿論怜さん。セコンドは明羅だ。
　それはそのまま明羅の想いを乗せている。

　全部に今までの想いと、そしてこれからの想いを乗せたい。
　怜さんがどう想っているかは分からない。
　これは明羅の心情を綴る曲だ。
　だって二人だけの為の曲で怜さんと明羅の二人でしか奏でない曲。
　誰に聴かせるわけでもない自分達だけの曲だ。
　それでもそれが怜さんの特別になって欲しい。
　そしていつでも明羅は怜さんの特別でいたいんだ。
　　
　
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お返事です^^(7/31日分）