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2012.09.11(火)
「送っていこう」
「……いりません」
学校の帰り、駅までの道で声をかけられた。
駅まで歩く明羅と宗の横には黒塗りの車がゆっくりと並走している。
「宗!どうにかして!」
宗が隣にいたんだけどもう関係ないらしい。
「…無理だな」
宗も呆れて肩を竦ませている。
「おかしくない?」
「おかしいな」
宗が答えた。
明羅はふと宗にもお父さんにも感想を聞いてなかったと思い当たった。
「あ、じゃあ乗る。宗も」
「は?」
明羅は宗の腕を引っ張って後部座席に乗り込んだ。
車は大きくて立派だが大きい宗とお父さんに挟まれてしまった、と後悔する。
「なんで俺まで」
「聞いてなかったから!CD聞いた?お父さんも!」
「………お父さん…」
「だ、だって!怜さんのお父さんでしょ!?」
明羅はかっと顔が火照る。
どうも宗とお父さんの前でも表情が素になっている。
きっと怜さんの家族だからだ。
だって似てるし。声も。
「あれ本当に桐生が?」
宗が口を開いた。
「…うん」
車は怜の家の方に向かっているらしい。
「さすが佐和子さんの…」
じろりと明羅は怜の父を睨む。
「それは言われたくない」
つんとして宗の方を向いた。
「怜さんの演奏は?」
「え?ああ、俺は正直わかんねぇんだよな。すごい、ってのは分かるけど」
宗が困ったように答える。
まぁ、クラシック知らない人が聴いたらそんなものだろうな。
明羅はちょっとがっくりした。
「すごい…なんて簡単なものじゃないんだけどな…生で見たら絶対分かるから」
「明羅くん」
怜のお父さんが呼びかけてきた。
「……なに?」
「あのソナタはラフマニを意識したのかな?」
「え?ああ、…一応、そう、かな…」
お母さんのコンサートに行ってると怜が言ってた位だからお父さんはそれなりに音楽は知ってはいるらしい。
「あれを…怜さんの…生の演奏…聴いてほしいな」
チケットを渡すとは言っていたけど行く、とまでは聞いていなかった。
「行こう。チケットが用意出来たら連絡をよこしなさい。前に渡しただろう?」
「…はい」
「あくまで君の曲を聴きに行くんだ」
別に強調しなくてもいいと思うんだけど。
「宗は?」
「…行くよ」
明羅はにっこりと笑みが浮かんだ。
「よかった!本当にすごいんだ!」
そこから何の曲がいいの、コンサートでどこがよかったと話し始めると宗とお父さんがげんなりしているのに気付いた。
「君は怜のコンサートに行った事があるんだな」
「え?最初からずっと、毎年行ってるけど?」
「……最初から?あれが最初の時はまだ17の時だ。その頃君は…」
「7歳だな」
宗が答える。
「うん。最初から行ってたよ」
「……7歳の時から?」
「うん」
宗とお父さんが驚いたように明羅を見ていた。
怜の家の前で車が止まった。
「ありがとうございます。……」
お父さん、と言うのはおかしいのか?
「お父さんでいい」
そう言って車は去っていった。
去っていったけどどうして宗までいるの?
「宗、家って近くなの?」
「いや。全然」
インターホンを鳴らすと怜が門扉が開けてくれた。
「……なんで宗が一緒?」
怜さんが怪訝そうな顔で明羅と宗を見比べた。
「え?知らない。お父さんの車で一緒に乗ってきたんだけど一緒に降りた」
明羅も首を捻る。
「……いいよ。じゃあ宗は送って行ってやる。ついでに帰り飯食ってこよう」
「ん」
明羅は頷いた。
「着替えて来い」
ぱたぱたと明羅が部屋に向かう。
「なに?あれ?幼な妻?」
宗の声が聞こえてくる。
「どっちかといえば妻は俺だな」
怜さんの声にけっと宗が舌打ちする音まで。
「なんで一緒だったんだ?」
「帰りに親父の車が寄ってきて、桐生が感想聞いてなかったとかで一緒に乗せられた。親父、桐生にお父さんって言われてにやけてるぞ」
そうなの…?
明羅は着替えをしながら二人の会話に聞き耳をたてていた。
「狂ってるからな」
「確かに」
「お前も明羅には弱いだろう?」
「………そんな事ねぇ」
なんか二人の会話が変な方にいってる。
「………遺伝か?」
「俺は違う!」
宗が言った。
「兄貴と親父はきっとあの顔に弱いんだ」
「…お前もだ」
「違う」
「何が違うの?」
「何でもない」
着替えを終えて、知らんふりしてきた明羅に宗と怜の声が重なった。