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熱視線 1st Anniversary 8

 控え室に戻る間ももどかしかった。

 「怜さんのばかぁ!」
 控え室のドアを閉じた瞬間にはもう明羅は怜の首に抱きついていた。
 「悪い」
 くすくすと怜さんは笑って明を抱きしめ、そしてキスした。
 それ以上明羅は何も言えなくてただもう興奮したままキスを貪る。
 高揚した気持ちは治まらなくてキスすればますます身体には熱が籠もってきてしまう。それでもキスがやめられない。

 「は…ぅ……ん…」
 「明羅」
 怜さんの腕が明羅の身体をぎっしりと抱きしめてくれている。
 「…よかったか?」
 「……ん」
 怜さんの唇が離れると今度は今までの緊張とプレッシャーともう訳が分からない色々な気持ちが入り混じった思いからの解放も手伝ってくったりと力が抜けてくる。
 くすくすと怜さんは笑ったままだ。
 「ちょっと待ってろ。すぐ帰るから。生方に後の事は任せてくるから」
 「……ん」
 そう言って怜さんが控え室を出て行った後、こてんと用意されていた椅子に明羅はへたり込むように座った。
 だってまさか全部をくれ、って言われてこんな事になるなんて思ってもみなかったんだから。

 「……ビックリすぎでしょ」
 小さく呟いて大きな溜息を吐き出した。
 放心状態が続いてしまう。

 …夢?

 ぺんぺんと自分の頬を叩くけど感覚がある。
 そして今自分がして来た事を思い出すと震えてきそうだ。
 だって明羅はコンクールだってほんの小さい頃しか出てなくて、ただずっとピアノを弾いてきただけだったのにこんなステージなんてありえない。
 「無謀だ…」
 たった10日近くでこんな事するなんて。
 はぁ、と溜息を吐き出し、そして今頃手が震えてくる。
 震える自分の手を明羅は握り締めた。

 一人にしないで、早く怜さん帰ってきてよ!と思っていると怜さんが戻ってくる。
 「明羅、着替え……」
 怜さんが明羅が震えているのに気付いて手を包んで撫でてくれる。
 「よかった…。気持ちよく弾けた。全部明羅の思いが聞こえた。お前は?」
 「うん…よかった、と思う…。怜さんが近く感じた」
 「ああ。前にお前の音は俺の物だと言ったけどやっぱり同じ時を分かちたくなった」
 こつんと額を合わせる。

 「でも!もうお願いだからこんなのやめて!心臓止まるかと思った!」
 「え~?いいと思うんだけどな?お前の気持ちが伝わってくるのがダイレクトに感じ取れる」
 「俺は無理っ!あんなとこで弾くなんて!怜さんがいたからそれでも出来たけどやっぱり俺は普通の人!」
 「…………どうしたって明羅は普通じゃないと思うけど」
 怜さんが笑いながら明羅の燕尾服を脱がせていく。
 明羅の手は震えていて自分では着替えが出来そうもない。
 そのまま怜さんにお任せして着替えを終わらせてもらい、怜さんは自分もさっさと着替えると帰るぞ、と明羅の腕を引っ張った。
 「抱っこしたげる?」
 「あのね!歩けます!」
 「よかった。帰ったら動けませんって言われたらどうしようかと思った」
 「…………」

 怜さんが欲しい。
 精神的絶頂はステージ上で味わったといっていいだろう。
 「……そんな事言わない」
 言うはずない。
 こんなにいつでも明羅の中は怜さんでいっぱいになっているのに。

 怜さんは帰る算段をちゃんとしてきたらしく、生方さんやスタッフに挨拶してさっさと会場を出て行く。
 そのまま怜さんの車に乗せられ、でも車の中ではどうしても無言になってしまう。
 今あった事を何度も思い出し反芻してしまう。
 夢の世界だった。
 同じステージに立つ事でしか味わえない夢の世界。

 怜さんの手が伸びてきて明羅の頭を撫でた。夢じゃない、と言わんばかりに。
 「怜さん…」
 熱が治まりそうにないんだ。
 分かっている、と言いたげに怜さんの瞳が笑っている。
 家に着けば怜さんに抱き上げられてそのままベッドに直行。
 怜さんの首に腕を巻きつけキスしながらお互いを貪りあう。

 身体も熱い。怜さんも?
 互いの衣服を脱ぎ去り身体を触れ合う。
 そして怜さんに身体中キスを落とされ痕を残されるのに明羅の身体がいちいち反応してしまう。
 「敏感になってるな…」
 「だ、…って…」
 ずっと興奮状態が治まらないんだ。
 「熱い…」
 「ああ……明羅」
 怜さんも熱くなってるんだ。
 性急に怜さんが明羅の中に入ってくる。それだけでもうイってしまいそうだ。

 「いい。明羅…」
 怜さんの声が耳に聞こえるだけでもう明羅の全部が怜さんで満たされている気がする。
 身体も心の中も全部。
 「怜、さ、ん……っ!ぁあっ…」
 「明羅…」
 怜さんの声も切羽詰っている。そして身体も熱くて明羅が手を回した背中も汗ばんでいる。
 怜さんも感じてる。
 一緒なんだ。

 そう全部感じるのが一緒なんだ。
 控え室に置かれたパンフレットを見た時に明羅は泣きたくなった。
 2台ピアノのタイトルは?なんて怜さんに聞かれなかったのに、曲目には「未来への一音」とタイトルが記されていた。
 怜さんが考えたんだ。
 …思ってくれたんだ。
 …感じてくれたんだ。
 あの最後の一音の意味を、明羅の思いをやっぱり正確に怜さんは分かっていてくれたんだ。

 怜にしがみつく明羅の眦から一つ透明な綺麗な雫が零れた。





                      Fine

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