水野の言った無駄とはどっちの意味だろうか?
遥冬には尚は振り向かないの意味か、それとも遥冬に自由な選択は与えられないという意味か。
…きっとどっちの意味も含めて、だろう。
はぁ、と遥冬は溜息を吐き出して全部をもう一度茶封筒に入れ、片付けようとリビングのボードの引き出しを開けた。
「…あ…」
その引き出しに尚ゲームセンターのクレーンゲームの戦利品で、遥冬に尚がくれたぬいぐるみが入っていた。
思わず遥冬はくすりと笑い、そしてそれを手にとった。
一撫でして茶封筒と一緒にまた引き出しに戻しそっと閉じる。
考えても仕方のない事。
水野の言う通りだ。
…無駄だろう。
はぁ、と遥冬は溜息を吐き出し、そしてバイトに行く為にまたマンションを出た。
「こんにちは~」
いつも元気のいい岳斗くんの声が沈んでいた。
どうしたのだろうか?
六月ももう終わろうとしている。
尚とは相変わらずそのまま何も変化はない。
…ないけど、尚は岳斗くんに会いに行っているのだろうか?
あの写真を見れば何度も行ってるはずだけど…。
「はい」
渡された伝票にサインを入れて岳斗くんには伝票を渡し、遥冬は品物を受け取った。
「…どうしたの?」
「え!?」
思わず声をかけてしまうと岳斗くんが驚いた顔で遥冬を見た。
「…元気ないみたい、だけど…」
いつも挨拶ばかりで余計な話を岳斗くんとはした事はなかった。
どうしても引っかかって遥冬は岳斗くんを避けていた、といっていい位だっただろう。
「ああ…うん…ちょっと…。うまくいかないなぁ、とか…。自分は我慢が足りないなぁ…とか…自分に自信がないなぁ、とか…色々…」
「……いつでも元気で笑顔なのが僕は羨ましいと思っていたけど?」
かなり意気消沈しているらしい岳斗くんに思わずそんな事を言っていた。
「え~~~!ないない!遥冬さんチョーーーー綺麗で俺の方がすっごい羨ましかったのに。遥冬さん位綺麗だったら釣り合うかなぁ…とか」
釣り合う?誰に?…尚に?
一瞬聞こうかと思ったがそれを聞いてどうするのか。
遥冬は聞くのをやめた。
「…自信、持っていい、と思うけど?」
「え~~~……へへ……ありがとうございます。……あの…俺、嫌われてない?」
「え?」
岳斗くんが恐る恐るという感じで遥冬に窺う様に聞いて来た。
「なんか俺、遥冬さんに嫌われてる、のかな…って思ってたんだけど」
「そんな事ない。…僕は表情があんまり変わらないから。よく冷たいとか人形のようだとか言われているんだ。気にしていたのならごめん」
避けるようにしていたのは本当の事だが、嫌っていたのではない。この子を嫌いになれる人はいないだろうと思う。
「冷たい?そんな事ないけど…嫌われてない…?…よかった!遥冬さんは尚先輩といっつも一緒にいるし絶対いい人だと思ってたけど!」
尚といつも一緒って…。
「あ、尚先輩にはそんな事俺が言ってたなんて内緒です!いっつもからかってばっかりくるんだから!」
「そう…?」
「そう!ふざけてばっかり!」
ふざける事はあるけど、そこまででもないと遥冬は思うのだが…。
「あ!俺行かないと!じゃまたね!遥冬さん。ありがとうございました」
ちょっと元気にはなったみたいだけどやっぱり岳斗くんの表情は冴えないみたいだ。
尚に連絡する?
…したくはないな、と正直な心が告げている。
岳斗くんの言い方は抽象的で本当のところ尚とはどうなのかなんて全然分からない…。
「注文来ました。…あの…ちょっと電話してきていいですか?」
オーナーに岳斗くんが届けてくれた物を手渡しながら聞いてみる。
「いいよ。どうぞ」
優しそうなオーナーは本当に優しい人でつっけんどんな遥冬にも全然普通に接してくれる。
「すみません。ほんの少しだけなので」
遥冬は断りを入れて外に出ると携帯を取り出した。
わざわざかけなくてもいいだろ、と思うけれどなんとなく知らん振りしたら自分に後ろめたいような気がした。
『もしもし?どうした?なんかあったのか?』
「え?」
慌てたような尚の声に遥冬が少々驚いた。
『遥冬から電話なんて…』
「ああ…僕は別になんでもない。…今、岳斗くんが配達に来たんだけどかなり沈んだ様子だったから」
『岳斗?……ああ。ま、理由は分かるけどな。分かった。………いいけど、それだけで電話?』
「…そうだけど?」
『なんだ。遥冬が具合悪いとか何かあったじゃないんだな?それなら寂しいでもいいのに。すぐ行くぞ?』
「…誰もそんな事言ってない。仕事途中だから、じゃあ」
遥冬は尚の返事を待たずに電話を切った。
尚は岳斗くんに会いに行くのだろうか…?
やっぱり電話なんかやめればよかったか、とほんの少しだけ後悔してしまった。
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お知らせ
本日お昼up分から 8月2日 朝の分 まで尚の話は一時お休みします(><)
他の話をup致しますのでご了承くださいませm(__)m
お昼の分は複数ページがございますので
(特に携帯の方)
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