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蒼の焔。 7

 「ごめん!遥冬くん、ウーロン茶がなくなる!急いで酒屋さん行ってきてもらえるかな?」
 「はい」
 オーナーに言われて遥冬は勿論頷く。
 「酒屋さんの閉店近いし、電話してとりに行くって言っておくから。なんだって今日に限ってウーロン茶ばっかり出るんだろう…」
 「波がありますよね」
 「そうなんだよね…。酒屋さん閉まる前でよかった。お願いするね」

 遥冬はすぐに近くの岳斗くんのバイトしている酒屋に向かった。
 岳斗くんはまだいるのだろうか…?…尚は?
 「……っ!」
 遥冬はさっと電柱に隠れた。ちょうど岳斗くんがお疲れ様でした~、と出て行く所だった。
 そして…。
 尚がいた。
 岳斗くんの頭を触ったりして、仲よさそうに歩いて行ってしまう。
 やっぱり尚は岳斗くんが好き…?
 明るくて素直で可愛い岳斗くんだ。
 皆にも好かれているし。
 愛想もない遥冬なんかとは全然違うんだ。
 遥冬はきゅっと唇を噛んで二人の姿が見えなくなった頃酒屋さんに入った。

 それから50’Sに戻ったけど、どうにも仕事に身が入らない。
 注文を間違ったり、と遥冬にはありえない失態を繰り返した。
 何をやっているんだ。
 そう自分を叱咤してもどうしようもなくて…。
 「遥冬くん、疲れているのかな?…そうだよね。ほぼ毎日ずっと入ってくれているから。大学もあるのに…」
 「いえ!本当に今日はすみません。自分が悪いんです」
 岳斗くんと尚の仲よさそうに歩いていった姿がどうしても脳裏を横切ってしまうのだ。
 電話なんかしなきゃよかったんだ!
 そう思ってももう遅い…。
 遥冬は頭を項垂れた。

 「お客さんも大分捌けてきたから、今日はいいよ。上がっても」
 「……すみません」
 今の状態のまま残っても店の迷惑になるだろうと遥冬は頷いた。
 「気にしないでいいよ。疲れている時とか具合悪い時なんかちゃんと言ってくれないとダメだよ。遥冬くんが毎日でいい、と言ってくれるのにこっちが甘えて無理してもらっているから」
 「いえ!本当にそんな事は…。でも…じゃあすみません、今日は上がらせていただきます」
 「うん。ゆっくり休んでね」

 本当にオーナーはいい人で、気遣われるのも面映い。
 すみません、と頭を下げ、遥冬は店を出た。
 中途半端な自分の気持ちが悪いんだ。
 どうせ尚から離れると分かっているのに、それでも岳斗くんの所に行って欲しくないと思っているのだから。

 遥冬は悶々とした気持ちのまま早歩きで自分のマンションに向かった。
 するとマンションの前の植え込みに腰かけている人影があったのに、もう夜の10時過ぎているのに誰?不審者か?と怪訝に思い、警戒しながら近づくとそれは尚だった。
 「尚!?」
 「よう。泊めて?」
 にっと尚が笑ってそこにいた。
 「……いいけど…」
 岳斗くんと帰ってそのままだと思ったら…。

 「遥冬バイト終わるの早くね?」
 「ああ…ちょっと今日は調子悪くて…早めに上がっていいって言われたんだ」
 「大丈夫か?」
 「……平気だ」
 体調の調子が悪いんじゃない。心が不安定になっていたんだ。
 それが尚がここにいただけで、遥冬の元に来てくれただけで今までのどす黒い思いが薄らいでいく。

 「っ!?」
 エレベーターに乗ると尚が遥冬の額に触れた。
 「熱あるとかじゃねぇな?」
 「…ないよ。体調が悪いんじゃないから」
 岳斗くんとはどうしたんだ?と問い詰めたい気を遥冬は必死に抑えた。
 それを問う資格は遥冬にはないのだ。
 「岳斗んとこに行ってきたんだ。かなり凹んでたな」
 尚から切り出してきたのに遥冬はぱっと顔を上げた。
 「…うん」
 「あいつ我慢するから…」
 尚が苦笑しながらぽつりと言ったのに遥冬は心が苦しくなる。

 「…高校の時から…仲いい、のか…?」
 「仲いいかぁ?悪くはないけど別に仲いいってのと違うぞ?」
 違う?じゃあ何なんだ?
 遥冬は尚から顔を背け、俯いた。
 すると尚が遥冬の背後にすっ、と場所を移動してくると後ろから抱きしめてきた。
 「!」
 何!?
 どきりと遥冬の心臓が跳ねる。

 「遥冬…」
 遥冬の肩に尚が頭を押し付けてきた。
 どうしたんだろう?
 遥冬はそろそろと手を伸ばして尚の頭をよしよしと撫でた。
 するとくすくすと尚が笑い出す。
 「ガキくせぇな」
 「………」
 なんか凹んでるのか?
 エレベーターの扉が開くまで尚の頭をそっと遥冬は撫でていた。
 
 
 

テーマ : 自作BL小説
ジャンル : 小説・文学

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