土曜日でもないのに遥冬のマンションに泊まった尚はセックスをするわけでもなく、それでも遥冬を離さないでぎゅっと抱きかかえたまま眠った。
どうしたのだろう?
凹んでるのとも違う気がする。
凹んでいたのは岳斗くんの方だったんだ。
それでも自分が尚に必要にされているようで遥冬は内心嬉しかった。
もし尚がこうして来ていなければ遥冬はあの二人の仲よさそうな光景が脳裏に浮かんで眠れなかったかもしれない。
自分から尚に電話したにもかかわらずに…。
しかし水野に言われた通り、これは無駄な気持ちだ。
分かっているのに自分を抑えられないんだ。
すぅと規則的な寝息を漏らす尚に遥冬はそっと口づけた。
この遥冬を捕まえている尚の腕にはどんな意味がある?
セックスするのも…どうして?
今だって岳斗くんの所に行ってきた、と言ってなんで遥冬の所にわざわざ来た?
色々聞きたくはあるけどそれを聞いてもどうしようもないので遥冬は聞かない。
もし、万が一、…ないとは思うけれど、遥冬が望んでいるような言葉が尚から出たならどうすればいい?
それなら聞かない方がいいんだ。
複雑な思いを浮べたまま遥冬もいつの間にか眠りに堕ちていた。
「遥冬…」
尚の声が聞こえたと思ったら唇が軽く重なっているのに気付いた。
外はもう明るくなっているらしい。
鳥の鳴き声が微かに聞こえてきたが、まだ遥冬の意識は混濁していた。
「…お前は…どう思ってる…んだ…?」
小さく囁くように呟かれる尚の声。
でもそれを聞きたいのは遥冬の方だ。
「遥冬…」
「…ん…」
遥冬の声が漏れると尚が離れた。
「遥冬、朝だぞ」
さっきの呟いた不安げな声ではなくいつもの尚の声が聞こえた。
「んっ…」
瞳を開ければ尚の顔が目の前にあってその目が遥冬をじっと見つめていた。
「尚…おは……んっ!」
すると尚が遥冬に覆いかぶさるようにしてキスを重ねてきた。
「ぁ……」
朝から舌を絡めてのディープなキスだ。
「ん…ぅ……っ」
思わず下半身に熱が集まってくる。
唾液が混じりあい、声が漏れてしまう。
貪るように尚の舌が遥冬の口腔を舐ってくるのに遥冬は尚の背に手を回し、そしてそれに応える。
「ほんと…お前やばい…ああ~…」
唇が離れると透明な糸が引くのにかっと遥冬の顔に朱が散ると、尚が遥冬の身体をぎゅっと抱きしめながらがくんと遥冬の身体の上で頭を垂れた。
「…やばい?」
「やばすぎ。……こんななってるし…ってお前もか。感じたんだ?」
ぐりと腰を押し付けられれば互いの大きくなっていたものが擦れる。
「あ、ぅ…」
びくんと遥冬が身体を反応させれば尚が溜息を吐き出した。
「だめだって…。止まらなくなる…。困ったヤツだな…」
「あ、あっ」
尚が苦笑しながら腰を揺らせば余計に感じてしまう。
「だめだって、言って…!…尚が、してんだ、ろっ!んぁ…っ」
尚にそんなことされたら感じてしまうに決まってるのに!
「学校サボってしちゃう?」
「サボらない!」
遥冬はぐい、と尚の身体を腕で押しのけた。
そんな事したら溺れてしまいそうだ。
「なんだよぉ…つれないなぁ…」
尚は余裕なのかくすくすと笑っているのが悔しい。
「時間ないだろ!」
「…そうなんだよね…。残念」
一度尚は家に帰らないといけないだろうからと遥冬がそう言うと尚も諦めたように遥冬の上から身体をよけ、そしてベッドから降りた。
「マジで時間やべぇな…」
携帯で時間を確かめるとばたばたと着替えを始める尚に遥冬はくっと笑った。
「じゃあ後で学校で」
「ああ。急に来て悪かったな」
「別に」
尚がくすと笑って遥冬の頬にキスするとわたわたと部屋を出て行った。
……頬にキスって…。
妙に恥かしいのはどうしてだ?
遥冬は頬を押さえながら顔を赤くしたけれど、それは尚がいなくなってからだった。
誰も見ていないんだから少し位余韻に浸ってもいいだろう。
遥冬はベッドの中で尚の気配と尚のキスとを思い出し、そして布団に包まって顔を緩めた。
尚が来なかったらきっと最悪な朝だっただろうに、今の遥冬の気持ちはその正反対だ。
下半身に集まった熱はまだ治まらない。
でも自分ではしたくなくて治まるまでじっと我慢した。
尚との朝からのキスと体温を思い出すとどうにも治まらなくて困ったなと苦笑が漏れた。
テーマ : 自作BL小説
ジャンル : 小説・文学