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熱視線 幻想~ファンタジア~3

 CDが発売された。
 反響がすごい、って生方さんが言っていたけど、怜さんは相変わらずだし何も変わりなく過ごせていた。
 それでもテレビとかで紹介される事もたまにあって外出は避けるようにして、明羅も怜が送り迎えするようにしていた。
 「いつもごめんなさい」
 「気にするな。俺もその方が安心だ。だが今日はちょうどいい。チケット取りに来いって連絡あったから」
 「そうなの?」
 チケットの発売は本当ならもっと前からなんだろうけど、急遽決定みたいな形で売り出され、でもあっという間に売り切れたのだ。
 「全部売り切れでしょ?」
 「…らしいな」
 へへ、と明羅は笑いを浮べた。
 「嬉しい」
 「何が?」
 「ステージの怜さんかっこいいし」
 「なんだ?普段はダメか?」
 「まさか。普段の怜さんもかっこいいけど…」
 思わず言わせられてかっと顔が赤くなれば怜が明羅の頭をぐりぐりと撫でられた。
 「…お前は可愛いぞ」 
 「可愛い、言われても…」
 嬉しくないはずだが、怜から言われればそうでもなくて。
 思わず顔を俯けた。
 

 「二階堂グループの力がすごい」
 生方が小さく言った。
 場所はいつものカフェだ。怜さんは燕尾服じゃないと別人みたいに見えるし普通の人は分からないだろう。
 「…そうなのか?」
 「ああ。お前頼んだのか?」
 「…頼んだ」
 「綺麗にシャットアウトしてくれている。怜までな。本当ならテレビ出演オファーとかもあったんだが…」
 「冗談だろ!」
 「いや、まじ」
 「……頼んでよかった」
 心底怜が呟いたのに明羅はちょっと怜のお父さんを見直した。
 「お前が二階堂社長の息子で、明羅君が桐生佐和子の息子なのも知れ渡ったがかえってそれが二階堂社長を怒らせるな、になって当たり障りない事になっている」
 「……都合のいいこった」
 「まったく」


 生方からチケットを貰って車に戻って、明羅は携帯を出した。
 「もしもし?怜さんのお父さん?明羅です」
 怜は運転しててぎょっとした。
 「チケット…あ、今は怜さんの車…え?あ、ちょっと待って下さい……怜さん、会社まで来られるかって」
 「……いい、が」
 「もしもし、大丈夫です。じゃ、今から行きます。はい」
 明羅が電話をしまった。
 「…会社ってどこ?」
 明羅が聞けばくすくすと怜が笑った。
 「近い」
 「…もしかして立派?この間宗送って行った時も家にちょっとびっくりしたけど」
 「それほどでもないだろうが。お前の家だって相当だ。だが家が立派だって仕方がない…。必要なのは家じゃない…だろ?」
 「…うん」
 明羅は怜の運転する腕の袖を掴んだ。
 今なら分かる。
 こうして怜がいつもいてくれて、愛してくれて、心配してくれて、一緒に笑っていてくれる。泣いた時は抱きしめてくれて、甘えさせてくれて。
 全部を与えてくれるのは怜だけだった。
 「怜さん…好き、だよ」
 「俺もだ。…でもお前もてもてだからなぁ…」
 「はい?…誰に?」
 「親父と宗」
 明羅は声をたてて笑った。
 「それ怜さんの身内じゃん」
 

 「すっご…これ…?」
 大きいビル。
 「ほら、行くぞ」
 怜の後ろについてエントランスを入る。
 スーツのきびきびした人の中にジーンズ姿の怜と高校の制服の明羅は目立つ。
 だがそれに臆する事はない。
 「すみません。桐生ですが」
 怜さんのお父さんに受付で名前を言いなさいと言われていたのでその通りにした。
 「お話は伺っております。そちらのエレベーターから30階にお上り下さい」
 受付のお姉さんが丁寧な口調で言ってくれた通りに30階で下りると怜さんのお父さんが待っていた。
 「明羅くん」
 にこにこ顔だった。


 「これ、チケットです。絶対、来て下さい、ね?」
 「ああ、分かった」
 明羅は通された部屋の立派な椅子に座って怜は黙って明羅の後ろに立っている。
 「じゃ」
 「え?もう行くのかい?」
 「だってお仕事の邪魔したら悪いから。忙しいんでしょ?」
 「まぁ」
 怜さんのお父さんは苦笑していた。
 「……ありがとうございました」
 怜がお父さんに向かって頭を下げた。
 「……何がかね?」
 「明羅の事です。それとついでの俺まで。助かりました」
 「ふん」
 「………怜さんのお父さん」
 「なにかな?」
 顔が全然違うんですけどどういう事?
 「え、と…ありがとうございました。俺の事でわざわざしてくれた、んでしょう?」
 「なんという事はないから」
 「ううん。怜さんの事も…」
 「当然だ!明羅くんに何かあったら大変だからな」
 なんでその笑顔が明羅に向けられるのか?
 明羅は苦笑している怜に首を捻って見せた。
 
 

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