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焔が燻る。 4

 本当に可愛いと思ってるし、名前も呼びたいと思ってるからそうしてるだけなんだけどなぁ?
 遥冬は怒ったようにして尚の方を向かないまま50’Sに向かい、すぐに着いてしまう。
 遥冬は店の準備で早めに出てきていて、尚は本当はもう少し遅い入りでもいいのだが一緒に来て店で出番を待つのがいつもだった。

 「毎度~」
 「あ!ども!」
 開店時間前に入ってきたのは岳斗のバイト先の岳斗の叔父さんだ。
 こっちは千尋の叔父さんで…って考えるとかなり変な気がする。
 「お?岳斗の先輩だ」
 やっぱり岳斗はいないんだ。
 くすと尚は笑った。
 遥冬が品物を受け取って伝票にサインしていた。

 「今日は岳斗くんいないの?」
 岳斗の叔父さんが帰った後に尚に向かって遥冬が聞いてきたのに尚は頷いた。
 「じゃねぇの~?きっと。千尋に会いに行ってんだろ」
 尚が客席に座って遥冬の仕事する姿を見ながらギターを爪弾き、音を確かめていた為無意識に答えてからやべ、と口を押さえた。
 「あ、今の聞かなかった事にしといて?」
 「…聞かなかったことにするのはいいけど。その前にどうして岳斗くんはその千尋っていう人の所に行ってるの?オーナーの甥ごさんで尚とバンド一緒にしてたっていう千尋っていう人?」
 「そ。……なんで、って…付き合ってるから?遥冬、マジコレ内緒な?千尋、今大事な時期だし」
 遥冬が大きく目を瞠った。

 「大事?」
 「そう。インディーズでCD出すらしいけど、芸能人様になるだろうし」
 「そんなの僕は興味ないから」
 「まぁな。お前吹聴して回るようなヤツじゃないって分かってるけど」
 「元々僕は誰かに話しかけられる率も低いし。…って、それはいいけど、付き合ってる!?」
 「そ。高校ん時から。もう1年過ぎたか?そん位。岳斗がも~千尋しか見えてないから。あ、岳斗をからかうのはいいと思うぞ?」
 「…………1年…?付き合ってる…?千尋って人、と…」
 遥冬が眉間に皺を寄せて考え込んでいた。

 「遥冬サン?どうしたのかな?」
 そしてじいっと尚を凝視していた。
 「尚は…岳斗くんが…好きなのかと思ってた…」
 「はぁ?まぁ、好きって言えば好きだけど。そりゃ、あくまで人間として好きで色恋の好きじゃあねぇな」
 …自分でも気づいたばっかだけどと心の中で付け加え、ぷっと尚は声を出して笑いながら言った。
 「そ、う…なんだ…」

 おや?
 遥冬が口元を手の甲で隠しているけど、その口端が上がっているのが見えた。
 …もしかしてずっと遥冬は俺が岳斗を好きなんだと思ってたって事か?
 尚はギターを置いて千尋の叔父さんが客席に出てこないのを確かめる。
 「遥冬」
 「…何?」
 尚は遥冬の腕を引っ張って叔父さんの方から死角になる方に連れて行くと遥冬を抱きしめた。
 「…何するんだ」
 「だって遥冬が可愛いな~~~~と思って」
 小さい声で耳元に囁く。
 そのついでに耳にもキスしとく。
 「っ!」
 遥冬が耳を押さえ眦を仄かに紅くしながらきっ、と尚を睨んだ。

 「やめろ」
 「うん。勿論。これだけ~。……今はね。俺だってこれ以上したらマズイ事になるし。帰るまで我慢します」
 耳朶を食みながら答えると遥冬は身を捩って尚の腕から逃れ、仕事に戻る。
 「ホントつれないんだから…」
 はぁ、と尚は溜息を漏らした。
 さっきは嬉しそうに見えたんだけど違ったのか?
 遥冬の顔は普通の無表情に戻っていて、もうその表情からは何も読み取れなくなっている。
 でもやめろ、とは言うけど嫌というのとは違うんだよなぁ、と尚は仕事を続ける遥冬を見ていた。

 きっと仕事の邪魔をするな、という事なのだろう。
 帰ってからゆっくりすればいい。キスもたくさん。
 名前もいっぱい呼んでやる。
 いつも尚が遥冬と呼ぶと過剰に反応するのを遥冬は分かっているのだろうか?
 だから必要以上に遥冬の名前を呼んでしまうのかもしれない。
 いや、それをわざわざ指摘してくるあたり、遥冬も自分で感じ取っているのか?
 それにしても岳斗の事をそういう風に見ていたのは知らなかった。

 ……ん?

 数日前にわざわざ岳斗の事で遥冬は尚に電話をよこした。
 んん?
 尚は頭を捻った。
 遥冬に好かれていると思っていたけどそうじゃなかったのか?
 尚が岳斗を好きだと思っていて、わざわざ連絡入れてくるか?
 あれ?と尚は頭が混乱してしまった。
 うぬぼれだったのか?
 「う~~~~ん……???」
 どうにもやっぱり遥冬の事が分からないな、と苦笑してしまう。
 でもそれだったらさっきの嬉しそうはどういう事だろう?
 う~~ん…と唸ったって答えが出るわけじゃなかった。
 

テーマ : BL小説
ジャンル : 小説・文学

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