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焔が燻る。 9

 「………………だるい」
 朝目覚めて一番の遥冬の台詞がこれだ。
 「うん。だよね~。ごめんね~。暴走しちゃいました~」
 「…………別に」
 遥冬がベッドの中でかっと顔を赤らめたのに尚はキスを落とす。
 いいんだ?
 別に、が出て尚は安心してしまう。
 さすがにいきすぎだったかな?と思ったけれどどうやら大丈夫らしい。

 「…起きないとだめか?起きられる?」 
 「…………起きる」
 遥冬がダルそうに髪をかき上げながら半身起き上がるのに尚が手を添えた。
 「ちょ…っ!…なん、だ…これ……」
 「え~…スミマセン。暴走の結果?」
 遥冬の身体中に散らばる赤黒い痕の数が半端ない。
 遥冬が自分の身体中に残っている痕に顔を真っ赤にしながら尚を睨んだ。
 「う~~~~ん…そんな顔で睨まれても…チューしたくなるだけだけど?」
 尚が軽くキスするとはぁ、と遥冬がガックリして溜息を吐き出した。

 「………キモチワルイ」
 「え?なにが?」
 「……なんかの病気みたいじゃないか!」
 「ああ、キスマーク?俺はチョー嬉しいけど?」
 そして遥冬がまた溜息を吐いている。
 「……………我慢しなくていい、とは言ったけど…出しすぎだと…思うんだけど…」
 「うん。我慢しない事にしましたから」
 遥冬がベッドの上で頭を抱えてそして自分の身体を眺め、また溜息。
 「何着ればいいんだよ…」

 結局遥冬が着たのは薄い長袖のタートルのTシャツ。
 「…見ろ、コレ!うっかり袖も捲くれない」
 尚が朝食を用意してテーブルに座り、食事をしながら遥冬が尚につきつけてきたのは手首でそこにも痕が残っている。
 「遥冬サンの身体全部に痕残したかったんだも~ん」
 「……調子のりすぎっ」
 「え~……ダメならもうしないけど…」
 「…………」
 遥冬がふいと視線を尚からそらした。
 「………別に」

 うわ!いいんだ?
 どんだけ?
 密かに愛されてるよな~、と思うけど、遥冬からの言葉はないんだ。
 それが残念で仕方ない。
 「遥冬」
 「うん?」
 尚は頬杖ついて向かいに座る遥冬を笑みを浮べながら見た。
 朝の光が差し込むダイニングで視線が合わさった。

 「愛してる」
 一瞬遥冬がきょとんとした顔で呆けると直後にまた真っ赤になっていた。
 「な、な、何……言っ、…って……」
 「昨日好きだって言ったのもちゃんと覚えてる?」
 「お、覚えて…る」
 遥冬は口を隠しながらも律儀に答えるのに尚はくすりと笑ってしまう。
 「ならいいや」

 尚が満足して食事の続きを始めると遥冬はテーブルに肘をついて頭を抱えてくすくすと笑い出した。
 珍しい。…というかこんなに嬉しそうではにかんだ表情で満足そうな遥冬を見るのは初めてだ。
 「……馬鹿だな」
 「馬鹿?」
 何を言うかと思ったら馬鹿。
 「…それはないんじゃない?」
 「いいや、馬鹿だ」
 そう言った遥冬の目が少しばかり潤んでいるのが見えた。
 尚はくすっと笑って知らんふりをする。

 遥冬が抱え込んでいる事を全部出してくれれば…。
 昨日言った事を遥冬はちゃんと覚えているだろうか?
 分かってくれるだろうか?
 全部受け止める覚悟は出来た。
 もう欲しいのは遥冬だけだ。
 あんな暴走した自分を全部許してくれる位に遥冬だって尚の事を好いている。
 そうじゃなきゃ自分から誘ってこない、学校の事だって許すはずもない。
 その全部を受け入れる位に自分を求めているはずだ。
 それはもうこの表情が物語っている。
 それなのにまだ全部じゃないんだ。
 出してやる。
 そして遥冬の全部を貰う。

 「遥冬」
 「何?」
 真っ赤になっていた顔はもう元通りだ。でもどこか柔らかな印象。
 「覚悟してね?」
 「…覚悟?」
 「そう」
 「何の?」
 「何の……う~~~~ん……何だろ…全部?」
 「……意味分かんない」
 「うん、まぁいいけど。俺は決めたから」
 「何を?」
 「全部」
 「………………全然意味分かんないけど?」
 「今はそれでいいかな。そのうち」
 「…そう?」

 他愛ない言葉遊びに遥冬もうっすらと笑みを浮べている。
 笑顔の大放出に尚の方がどぎまぎしてしまう。
 「ええと、遥冬サン?」
 「ああ?」
 「俺の前ではいいけど、他の人の前出る時はもう少し前のお人形さんに戻ってくださいね?」
 「んん?」
 遥冬が頭を傾げた。コレ無意識か?
 「笑顔振りまきすぎ」
 「ああ……」 
 自覚はあったのか遥冬がくすりとまた笑った。
  

テーマ : 自作BL小説
ジャンル : 小説・文学

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