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冷やされる焔。 5

 岳斗くんは不思議な子だ。いつの間にか、そんなに話をするわけでもないのに遥冬がそんな事を言ってしまっている位に。
 そして本当に尚とはなんでもなさそうなのに遥冬が安心してるなんて思ってもいないのだ。
 それにしても…。
 「岳斗くんの恋人…かっこいいんだ…?オーナー甥御さんでしょう?」
 「うん!チョーかっけぇ!ベースもすごくいいんだよ!今度インディーズでCD出すんだ!すごいでしょ!?」
 尚もなんかそんな事言ってたな、と思いながらも岳斗くんが嬉しそうに話すのに本当に好きなんだなぁ、と思いながら頷いて聞いていた。

 「尚とバンド一緒だったって…?」
 「そう!」
 「尚もアレだし…すごい人気だったんだろうな…」
 「凄かったよ?ライブでも黄色い声飛びまくりだったし!」
 「…そう」
 高校の頃…。見てみたかった、と報告書の中に入っていた尚の写真を思い出した。
 「でも岳斗くんが元気になってよかった」
 「えへへ~。ありがとうございます~」

 本当の所は岳斗くんの好きな相手が尚じゃなくてよかった、と遥冬は思っているんだ。
 自分の事ばかり考えている。
 「あの、遥冬さんは…好きな人、と…って…」
 「ん?ああ、恋人ではないよ。片思いだ」
 でも身体は関係しているし、好きという言葉は貰ったけど。
 「絶対遥冬さんなら…うん…すんごい綺麗だし、雰囲気あるし上手くいくと思うんだけど…」
 「人形のようだし、冷たい雰囲気って言われるけど?」

 「ううんっ!そんなの上辺しか知らない人でしょ!冷たくなんかないもん!この間も…俺元気ないのに尚先輩に連絡入れてくれたんでしょ?冷たい人だったらそんな事しないもん」
 「……ありがとう。…いいけど、配達は?大丈夫?」
 岳斗くんがあっ!!!と大きな声をあげてばたばたとまた来ますね~!と慌てて出て行くのに遥冬も表情が緩んだ。
 可愛いなぁ、と思う。
 「岳斗くんかい?」
 岳斗くんから受け取った品物を片付けにいくとオーナーが笑っていた。
 「はい。……可愛いですよね」
 「そうだねぇ」
 やっぱり誰の目からも岳斗くんは可愛く見えるのだろう。

 尚と離れた方がいい、と思いつつも実家の状況が未だ変わらないのに遥冬も中途半端な気持ちのまま、尚とも今まで通りのまま。
 あと少し、あと少しだけ、と自分に言い聞かせながら、それがどれ位なのか…。


 そんな7月の二週目の金曜日。いつもと同じようにバイトに入っていた。
 「いらっしゃいま…」
 言葉が止まった。
 店に入ってきたのは兄と水野だった。
 「へぇ、本当にバイトしてるんだ?」
 何故ここに、なんて水野が知っているのだろうから言っても仕方のない事だ。
 「遥冬、オーナー呼んで」
 「…何故です?」
 「家の事情という事で早退させるから」

 相変わらず自分の都合で動く人だ…。
 遥冬は溜息を吐き出しながらオーナーを呼びに行った。
 「オーナー、申し訳ありません。…兄が来ているのですが…」
 うん?とオーナーが客席に出てきた。
 「遥冬がお世話になっております。大変申し訳ないのですが、家にちょっと火急の事情が出来て迎えにきたんです。仕事を途中で抜け出させるのは心苦しいのですが…」
 「いえ!いつも遥冬くんには助けられているので」

 …止めて欲しかった、と遥冬は心の中で悪態をつきたくなる。
 オーナーはまさか遥冬の事情など何一つ知らないのでここはいいから、と遥冬を送り出してくれようとしたのに溜息を吐き出したくなる。
 「…じゃあ着替えてきます」
 仕方無しにバックに下がり、遥冬はのろのろと着替えをした。
 「オーナー、すみません…」
 「いいよいいよ。いいけど、誰かが具合悪くなった、とかそういうのではないんだね?」
 「それはないです」

 いっそその方がいいのに、と思ってしまう。
 そうしたらあの話もなくなるだろうか…?
 こんな事思ってはいけないと思いつつそんな事が頭をよぎってしまう。
 オーナーに挨拶し、他のバイトにもごめんと謝って遥冬は待っていた兄と水野の所に向かった。
 店の入り口付近の待ち用の椅子に兄は優雅に座って遥冬を待っていた。

 「じゃ、行こうか」
 「……どこに?」
 「ホテルをとってある」
 兄の返事に遥冬は眉を寄せた。
 そしてちらと付き従っている水野を見上げるが、水野はいつも表情が変わらない。
 あえて出さないようにしているだけで、遥冬と違い、ないわけではないのだが、はぁ、と遥冬は兄に気付かれないように小さく溜息を吐き出した。 
 
  

テーマ : 自作BL小説
ジャンル : 小説・文学

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