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揺れる焔。 2

 「遥冬様、お食事の席が整いました」
 呼ばれて遥冬は無言のまま自分の部屋を出た。
 殺風景な何もない部屋だ。
 シングルのベッドと机と小さなテーブルと小さな本棚だけ。
 廊下に出ると小さく分からないように溜息を吐く。
 座敷に向かう途中使用人が遥冬を見ながら智哉さまが、とこそこそと話しているのを耳にした。

 …すでにここでは遥冬の役目は知れ渡っているらしいのに辟易する。
 「失礼します」
 声をかけ襖を開ければすでに兄も父も義母も揃っていた。
 末席に静かに遥冬は座った。
 「明後日には智哉の相手がこちらに母親と到着する。国会の議員の娘だ。婚約式の日には父親もおいでになるからくれぐれも粗相はするなよ」
 …いったいどれ位の金を積んだのだろうか?
 遥冬のは関係のない事だが。
 そしてその相手となるはずの向いに座る兄はそ知らぬ顔で食事を進めていた。

 明後日に到着。
 到着してすぐどうのという事はさすがにないだろう。
 婚約式はいつだっけ?水野に聞いたが到着の二日後だったか…?
 そうするとあと4、5日という所か?
 きっとそれまでには尚の遥冬の身体に残した刻印は消えているだろう。
 …食欲なんてどうしたってわく筈もない。

 マンションにいた時は尚がしつこくちゃんと食べたか、と聞いてくるので自分でもちゃんとご飯を炊いたりパンを焼いたりして食べていた。ここでは何もしなくてよくで、用意された料理なのにまったくもって箸が進まない。
 ほんの少し摘んだだけで遥冬は箸を置いた。
 尚が作ってくれたチャーハンとか、尚のお母さんが作ってくれたものはおいしいと思えたのに、綺麗な料理にはまったくもって味が分からない。
 「すみません…食欲がないのでこれで失礼致します」
 「遥冬。……分かっているな?」
 父が鋭い視線を遥冬に投げてきたのに遥冬は小さく頭を下げた。
 すると父はにこやかな顔になってそればらばよい、と満足そうに頷いた。
 遥冬はもう一度頭を下げて静かにその場を去る。

 「相変わらず表情がなくて暗くて人形のようでいやだわ!」
 閉じた襖の向こうから義母の声がする。
 オウムのように繰り返される言葉。
 そういえば毎日同じ事しか言わないな、と遥冬は冷めた心で思うだけだ。
 尚は違う。
 遥冬のちょっとした感情でも尚には分かってしまうらしい。
 それに尚は一度たりともそんな事は言わなかった。
 それどころか可愛いとか、目がいいとか…。
 遥冬はまた尚の事ばかり出てきてしまうのに小さく頭を振った。
 廊下を歩いていくと水野が待っていた。

 「少々よろしいですか?」
 基本水野は智哉についているはずなのだが。
 「お食事の時間が随分と早いような…?」
 「……食欲がなかった」
 遥冬の自室に向かいながら水野が話をふってくる。
 「僕といると兄さんに怒られるんじゃないの?」
 「いえ、別にそれは構いませんが」
 智哉は水野が遥冬といるのを極端に嫌がる。水野は自分のものだと平然と誰にでも言っているのだ。
 そして水野と智哉の関係もここでは知らない者はいない。

 「遥冬さん、本当に…受け入れられるのですか?」
 小さく遥冬にだけ聞こえるように水野が聞いて来た。この家ではどこに耳があるかわからないのだ。
 「そうするしかない」
 「何故です?」
 「尚の為」
 電話で尚と水野が話していた。面識があるのだろうか?尚は答えなかったけれど…。
 「……どういう意味です?」
 「お前だって父がどんな人か知っているだろう?」
 「……具体的に何か…?」
 「ああ…尚のお父さんは建設会社の社長だろう?」
 報告書にもそれは書かれていた事で、水野も知っているはずだ。
 「……………なるほど」
 水野が納得したように頷いた。
 「一体何?お前はそんなに僕の事気にした事はないのに」
 「まぁ。私の一番は智哉さんですけどね。智哉さんにも関係する事ですから」
 確かに結婚をするのは智哉だ。

 「……お前はいいのか?」
 「何がです?」
 「兄さんが結婚しても」
 「別に私達の関係は何も変わりませんよ?」
 「…そうかもな…。結局兄さんは水野を離しはしないだろうから」
 「そうですね。私も智哉さんが何をしたとしても離れる気はないので。では」
 遥冬の部屋に着くと部屋に入る事もなく水野は戻って行った。
 水野もこの家に寝泊りする事が多い。その際は智哉の隣がほとんどなのだが、結婚したらどうするのだろうか?
 …いや、女と寝る役目は遥冬だから確かにあの二人には変わりないのか?

 寝る…?
 自分が見も知らない女を抱くのか?
 尚に自分がされたような事を知らない女にする?
 気分が悪くなって吐き気がぐっと喉元にあがってきた遥冬はトイレに駆け込むと吐瀉した。
 気持ちが悪い。最悪だ。 
 
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続きに拍手コメお返事です^^
PSR様
 尻尾出しありがとうございます~(T-T)
 嬉しいです(^m^)
 尚父男前になってますか?よかった♪
 男前な父に…?(笑)
 男前な母にならなれるかな~?(^m^)
 ありがとうございます~^^

KRB様
 尚父も尚も男前なってます?
 でもやっぱ惚れるの父?(笑)
 孫は諦めました(大笑)
 弟に期待でしょう~(きっとね!)
 ありがとうございます~^^

S様
 やっぱ父ですかね?(笑)
 そしてMr.とツーカーでした~(^m^)
 ツーカーなってくれないと動けないので(笑)
 ありがとうございます~^^

nck様
 ステキ父になってますか?(^m^)
 こんな父の背中見てたら尚がかっこいいのも
 頷けるのですけどね~^^
 私の思い込みのために二枚目になりきれない彼です…^^;
 お母さんはどうでしょうね~?(^m^)
 ありがとうございます~^^

テーマ : BL小説
ジャンル : 小説・文学

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