長年使われていなかったから開くのかと思ったがちゃんと開いた。
そっと遥冬がちょっと小さめな裏口を身を屈め、心臓を高鳴らせながら出るとすぐに手が伸びてきて遥冬は腕を掴まれる。
「っ!」
見つかった!と思ったら遥冬は次の瞬間に抱きすくめられていた。
「ばーか!言うの遅ぇんだよ!」
「な、お……」
いた!ほんとに!
「なんだお前!ほんと青白い顔して!それに痩せただろ!」
尚が遥冬の頬を両手ではさんで顔をじっと見ながら眉を顰める。
だって…食べれなかったんだ…。
そう言いたかったのに言えなくて。
「尚……尚……」
「ああ、はいはい。ちゃんといるけど?それより今は急ぐんだ。お前大事な物今ちゃんと持ってるか?残してねぇ?」
「え?大事なもの?」
「そう。あ、いやいいか。後で頼めば…とりあえず来い」
「来い?だ、ダメだっ!」
「ああ?なんで?」
「だ、って…尚に迷惑が……」
「そんなものどうだっていい。遥冬。すぐ迎えに来いって言っただろ?来たけど?……もう離してやらねぇよ?」
尚がそう言って遥冬の腕を引っ張り車の助手席に乗せた。
「…車?」
「そ。親父に借りた」
すぐに尚が運転席に乗り込むとエンジンをかけ車を出す。
「尚!ダメだ!戻って!」
「嫌だね。なんで戻んなきゃねぇんだよ?いいからちょっと黙ってて」
そう言って尚が運転しながら携帯を取り出した。
「あ~、もしもし、遥冬拉致ったから。後でまた連絡します。…はい」
誰にかけてるんだ?
遥冬も知っている人?
「……誰に?」
聞いてもいいのだろうか?
携帯を仕舞った尚に聞いてみた。
「水野さん」
「水野!?」
「そう」
ちょっと待て?なぜ?
頭が混乱している。
考え込みながら外を見ているとやけに警察車両が多い気がする。
何かあったのだろうか?
「……ギリ、だった。っと…」
尚がまた携帯を取り出した。
「ああ、親父?うん。…ああ、そう。あ、よろしく。あとまた連絡入れるわ。うん…」
そしてまた電話を切る。
何なんだ?
「あの…尚…?どうなって…?」
「それはあとでゆっくり、な。とりあえずあんま喋らないで。俺初心者運転だし、道知らねぇし、緊張してっから。お前シート倒して寝てていいわ。安全運転にはする」
「え、でも…」
「いい。まじで顔色悪いぞ」
「……ん…。全然食事喉通らなくて…」
信号で止まると尚が腕を伸ばしてきて遥冬のシートを倒した。そして軽くキスする。
「寝てろ」
「……ん…。ね…どこ行くの?」
「迷い中。家に帰るか、お前具合良くなさそうだからどこかラブホでも入るか」
「………ラブホ……」
「何?行ってみたい?」
「………ちょっと」
「じゃそうすっか。遥冬サンの望みは何でも叶えてあげないとね」
ぷっと笑いながら尚が言うのにひどく安心する。
そして安心したまますぐに遥冬は目を閉じていた。
「…ると……遥冬…着いたぞ」
はっと遥冬が目を開けると目の前に尚の顔があった。
ここは自分のマンションで、すごい長い夢でも見ていたのだろうか、と一瞬思ったが、狭い空間なのにはっとした。
「夢、じゃない…?」
「ああ?何が?熟睡だったな」
ちょんとキスされて遥冬がかっと眦を染めた。
車の中でシートが倒れてる。
尚が遥冬の実家に迎えに来てくれたのが本当?
なんとなくまだ夢うつつな感じだ。
夢じゃない!?
はっとして遥冬は身体を起こした。
「大丈夫か?」
「大丈夫、って…大丈夫じゃない!戻らないと!」
「なんで?戻りたいのか?」
戻りたくはない。けど…。
外を見ればすでに真っ暗になってる。すっかり夜だ。
「遥冬…」
尚が車のナビをテレビに変えた。
「っ!……こ、れ……っ」
ニュースに映し出されていたのはよく知る顔。父親のものだった。
「……捕まった…?」
「そういう事。だからとりあえず戻らなくていいと思うけど?お前の居場所は一応知らせてあるし」
またも頭がぐるぐるしてくる。
捕まった…?
「お~い。遥冬さーん?大丈夫?」
「え?あ、…あ……」
じゃあとりあえず尚の心配はする必要ない、って事…?
「尚…」
「うん。いるよ?いいけど。ラブホ着いてる。入る?」
「……ん」
車から降りるて直接部屋に入れるらしい。男同士でもいいのか?とか、父親が捕まった、とかなんで尚がとか、遥冬は色々と頭の中をぐるぐるさせていたが、でも心の中は抱きよせてくれた尚の体温を感じ、ひどく安心した気持ちになっていた。
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