「あ、親父来た。ちょっと親父んとこ行ってくるけど、お前は寝てろよ?ああ、母親がお粥持ってきてくれるだろうからちゃんと食ってろ」
「……うん…」
車の音がして窓から外を確かめると父親の姿が見えたのに、尚が遥冬の頬を撫でながら言えば遥冬は素直に頷いた。
その表情のどこかしこにも安心している様子が見えて尚も自然表情が緩む。
「お前の着替え持って来たほういいかな…?俺のだとでかいな」
「いや…尚のでいい」
スーツでは寝てられないので、とりあえずと尚のTシャツ短パンを遥冬は着用していた。
「……ん~と…その、わりぃ…首んとこ…キスマーク見えてんだわ」
「え!?」
はっとして遥冬が首を押さえた。
「ま、別に俺はいいけど…。お前が恥ずかしいかな、と…」
「よ、よくない、……」
「うん。けど着替え俺のしかないし、遥冬はさらにちょっと痩せちゃったし仕方ねぇよな。弟の着せるの俺がやだし!」
「………そこ?」
「ったりまえだ。なんで他の男の着せなきゃねぇんだよ。…というわけで、ちょっと気をつけてね?」
「……………今度から、つけるの…首から下だけにして」
それでもつけるな、とは言わない遥冬に尚はくすりと笑ってしまう。
「え~……だって遥冬サン首筋も感じるし~いっつもふるふるって震えて可愛いから…」
「尚っ!」
顔を真っ赤にした遥冬に尚は満足する。
ほら、こんなに表情があるのに。
「じゃ、俺ちょっと親父んとこ行って来る。あと親父挨拶に来るかも。遥冬に会いたいって言ってたんだ」
「……うん…」
「あ、親父には遥冬の事言ってあるから」
「……は?」
何を?という顔の遥冬を部屋に残して父親の書斎に向かった。
「親父…ありがとうございました」
尚は頭を下げ、そして車のキーを返した。
「まぁ、よかったな。それで遥冬くんの具合は?」
「…多分今は大丈夫そうかな。今までほとんど何も食ってなかったらしいけど…。今は食えるみたいだ。ただ今日はちょっと…」
尚は遥冬の父親にされた事を思い出す度にどうしようもない怒りがこみ上げてきそうになる。
「…どうかしたのか?」
「…俺は幸せだ。家族がコレだから。……………親父…、遥冬に俺が言った事は内緒にしてて欲しいんだけど実は…」
兄の見合いだったが、兄が無精子症の為女を孕ませろと言われた事、そして昨日の夜の薬の件を話す。
すると父親も顔も思い切り難しい顔になった。
「……そんな…?」
「ああ……。遥冬は自分をコマだと言ってたと言っただろ?」
「親が…子供に………そんな……」
父親が眉を思い切り顰めている。
「大学で初めて会った頃なんか本当に人形のように表情も変わらなかった。その人形のようだも小さい頃からずっと言われてたらしいけどな。それが最近は笑うようになったきて色々表情出すようになったんだ」
「ふぅん…じゃあ遥冬くんに挨拶してこようか」
「美人だぞ?」
「はいはい」
尚が部屋の戻ると遥冬が尚のベッドに半身起こしてお粥を食べていたところだった。
「尚のお母さんが持って来てくれた…」
「うん。食ってていい。ちゃんと食え!」
「初めまして……」
「尚のお父さん…?あ、の…すみません…ご迷惑おかけして」
「いや、いいから…。尚も言ってたようにしっかり食べなさい」
「……ありがとうございます」
「よくなるまでいていいから。安心していなさい。……ニュースは見た?」
「…少しだけ」
「君のお父上と母上、義理のかな…?も逮捕された」
「…え?」
「……君のお母さんの亡くなった件での嫌疑もかかっている」
遥冬がこくりと唾を飲みこんだ。
「そ、う…なんです、か…?」
「ああ。いいかい?君は一人じゃない。尚もいる。何かあったら私も力になるから」
「……え…?」
「いいね?じゃ私は忙しいから行くけど」
「ああ。親父…サンキュ」
くっそ、と尚は悔しくなる。いくら力になりたいとはいえ尚だってまだ未成年だ。父親みたいに実際に力になれればいいのに自分は非力でしかない。
尚は父親が出て行ったドアを睨んでいた。
「くっそ…くやしいな…」
「え…?」
「俺、なんも遥冬の力になれねぇな…ってさ」
「そんな事!……尚がいなかったら…僕は人形のままだった…。楽しいも嬉しいも寂しいも分からなかった…」
「……遥冬」
尚はベッドに腰かけて軽く遥冬にキスした。
「まず食え。ちゃんと体力戻さねぇと」
「ん……」
「吐き気もないか?」
「ないよ。全然。……実家にいた時はホント何も食べられなかったのに…」
遥冬がくす、と苦笑を漏らした。
テーマ : 自作BL小説
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