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熱視線 幻想~ファンタジア~7

 幻想ポロネーズの音符が空中に舞っている。
 明羅はやっぱりショパンコンクールで受賞した人の音は違う!と仕上がった曲に呆然と聞き惚れた。
 毎日毎日聴いているはずなのに、毎日毎日新発見があるのだ。
 これを会場で全部聴いたらまた泣いてしまいそうだ、と怜を恨めしくさえ思ってしまう。


 10年間通ったコンサートでは一音も聞き逃さないようにと睨みつけるようにして聴いていた。
 欲しい、欲しい、…そう思いながら。
 今はもう全然心情が違う。
 明羅の作った曲を怜が奏でる。
 それだけで怜が与えてくれる快感と似たような愉悦を感じてしまう。
 初めて初見で弾いてくれた時も震え、CD録音の時も感極まって泣けてしまった。
 ……多分、またコンサートでもどうにかなってしまいそうだ。
 だって今度は沢山の観客がいる。
 反応が見えてしまうのだ。


 怖い。 
 正直恐くて仕方がない。
 コンサートはもうすぐで、怜さんの追い込みも激しくなっている。
 毎日それを聴いてるだけで泣けてきそうになるのに、絶対ヤバイと思ってしまう。
 親にCDの感想を聞きたかったけれど連絡はこなくて。
 怜さんのお父さんの言う一流のプロから見てどう思ったのか聞きたかったけれどきっと忙しいのだろう。
 どうにも明羅は落ち着かない日々が続いた。


 12月。
 クリスマスがもう近くて街はクリスマスの音楽とイルミネーションが溢れ、どこか急ぎ足に時間が過ぎていく。
 制服の上にはコートを着るようになって、怜さんの家は暖房が入るようになっていた。
 怜さんも神経がぴりぴりしているのが見えた。
 「……うざくない、か?」
 「全然」
 明羅はベッドの端に座った怜の後ろから抱きついた。
 「いつもコンサートの前はこうだぞ?いや、明羅がいる分ましかもしれないが」
 「そう?……コンクールの時とどっちがひどい?」
 「かわんねぇよ。毎回一緒だ」
 怜が鬱蒼と笑った。
 「甘えていいよ?いっつも俺が甘えてるから」
 「甘えてるだろ?毎日お前の身体に抱きついてるし」
 怜がベッドに明羅を倒して抱きつき、首に顔を埋めた。でもそれ以上する気はないみたいで、明羅は怜の頭を撫でた。
 いつも撫でてくれるのは怜で明羅はそれが嬉しい。怜もそう思ってくれたら、と何度も何度も怜の頭を撫でる。
 「大丈夫だよ。怜さんは成功する。今だって怜さんのピアノ聴けばもう毎日泣きたくて仕方ないから。我慢するの大変」
 「…そうか?」
 「そう!問題なのは俺のほうだよ……折角の怜さんのピアノ台無しにしないかな、とか…」
 「んん~?お前の<ハッピバースデイ>が?」
 「そう」
 「それこそないだろう」
 怜さんは断言する。
 ずっと明羅は怜の頭を撫でていた。
 「うん…。怜さんがそう言ってくれればもういいや。って感じ」
 「……だな。俺もお前がいいと言ってくれればそれでいい、か」
 「ん…このまま、寝よ?」
 いつも明羅を抱きしめるのは怜の腕だったけど、今日は反対だ。
 明羅が怜を安心させるように頭を撫でながら怜を胸に抱いた。

 
 コンサートの日。
 学校は冬休みに入った。
 ずっと怜さんといられる、と浮かれるところなのだが、さすがに今はそれどころではない。


 すでに怜さんは着替えを済ませて控え室で燕尾服姿。
 髪は撫で付けてあって普段とは違う雰囲気。
 「……かっこいい、なぁ…」
 別人!と思わず言いたくなってしまう。
 「お前、だからそれじゃどんだけ普段がダメなんだ?」
 「いや、だめじゃないよ?」
 だって正装ってやっぱり特別だと思う。
 「お前も制服じゃなくて新鮮だ。しかし、スーツ着慣れてるよな…」
 「そう?どこかの演奏会行くたび一応着てたから」
 「そこが普通じゃないと思うんだが…」
 怜は明羅を抱きしめた。
 時間が迫っている。
 調律はもう大分前に終わって、リハも終わってる。
 後はもうブザーが鳴って本番だけだ。
 「怜さん」
 明羅が怜の顔を両手で挟んで顔を引き寄せた。
 そしてキスすると怜の手が明羅の頭を押さえて深いものに変えていく。
 「…ふ……や、だめ…」
 明羅が怜の胸を押した。
 「なんで?感じるから?」
 「もうっ!」
 思わず真っ赤になってしまう。
 「…行って来る」
 「うん。俺もあとずっとあっちで見てるから。…いってらっしゃい」
 がんばって、とは言わない。そんなの今まで目にしてたんだからよく知っている。
 もう一度軽く唇を重ねた。
 口角を上げ、二人で目を合わせ頷き合うと怜はステージ裏へと静かに向かった。
 
 
 

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