買い物を済ませると一旦千波のアパートに戻って猫用トイレとかを孝明と設置。
「ウチに連れて来て一番初めにトイレに入れるんですよ?そうすりゃあと勝手に自分で覚えますから」
「え?そうなのか?」
「大抵は。よほどバカな子なら分かりませんけど。猫は粗相はほとんどしないから」
「…へぇ…」
何もかも知らない事ばかりですっかり孝明に頼りきってしまっている。
自分でもちゃんと勉強しておけばよかった。
そして一緒にキャリーを持って動物病院へ。
…やっぱり変だ、と思う。
千波より頭半分大きい隣を歩く孝明をそっと伺った。
孝明は一体何を考えているのだろうか?
猫の事を全然分からない千波はとても助かるけれど…。
余計な事なの何も話さないし、学校の事だって何も話さない。
学校では反対にプライヴェートの事なんて一切口を開かないんだから徹底していると思ってしまう。
やっぱり別人のようだ。
千波だって学校にはスーツを着て行ってるし、今はジーンズだけど、それでも眼鏡だっておなじだし、髪型だって変わりはないから別人には見えないだろうけれど、孝明は学校では伊達眼鏡でその秀麗な顔を隠しているといっていいくらいで、今は本当に教生の森とは全然違う人みたいだ…。
「……なんです?」
じっと千波が見ていたのに気付いていたのかついと孝明が千波に視線を向けた。
「え……あ、…その……学校と…別人みたいだ、な…と…」
ふっと孝明が笑みを漏らした。
「そりゃあ作ってますからね。こっちが普通です。千波さんも別人のようですよ?」
「え?は?別にかわりないだろう?」
「いいえ?学生のように若く見えます」
…それは誉められてるのだろうか?貶されてるのだろうか?
思わず悩んでしまう。
病院まであっという間に着いてしまい言われた事を言及する間もなかった。
「お迎えがきたぞ?」
先生がミューと待っていてくれた。
病院のカゴから出すと千波にすりより派手にごろごろと喉を鳴らす。
…分かっているのだろうか?
「なにか気になる事でもあったらいつでも来てください」
先生に言われて千波は頭を下げながらミューを引き取りワクチン代を支払うと病院を後にする。
孝明は黙ってついてきてるだけだけどなんとなく心強く思えてしまうんだから本当にどうかしている。
先週のアレさえなければ…と千波が気にしているほど孝明は気にもしていないのだろうか…?
…きっとそうに違いない。
すぐに千波の部屋についてキャリーのドアを開けるときょろきょろしながらミューが恐る恐る出てこようとするのを孝明がそっと捕まえた。
「トイレ先」
「あ、うん…」
ミューを手渡されて千波は設置したトイレの中にミューを入れた。
確かめるように匂いをかいでいる。
「…こんなんでいいのか?」
「…多分」
孝明と一緒にトイレの中のミューの様子を覗き込む。
「あとは部屋の端っことかに行って大人しくなった時とか注意して見てればいいと思いますよ」
「そう…?」
匂いをかぎ終えて確認は終わったのかそろそろとミューがトイレから出てくる。
「しばらくそのまま放っておいた方いいでしょう。自分の行動範囲の確認でしょうから」
そんなもんなのか?
千波と孝明は部屋を確認するミューの後ろをついて回るようにしていた。
ちょこちょこと小さい身体があちこち鼻をならして確認して歩きまわる。
床には極力何もおかないようにしていた。
しばらくミューがびくびくしながら部屋の中を探検している様子を見、孝明は視線を向けたままソファに座った。
「あ…昼…お腹すいただろう?…蕎麦とかでもいいか?」
「え?…ああ…なんでも」
ミューは孝明が見てくれているらしいので千波はつき合わせてしまった孝明の為に昼の用意を始めた。
「水はこっちだ」
孝明の声がキッチンにいる千波の耳に聞こえてくる。
ミューに説明してるのか?
思わずくっと千波は笑ってしまった。
……可愛い。
ぷぷっと笑いながら千波は蕎麦を用意した。
出来上がってテーブルに運ぶとミューがふんふんと鼻を鳴らしながらテーブルに手をかけようとしているのを孝明が押さえている。
「お前はダメ。大人しくしてろ」
ミューと孝明の組み合わせにどうしても千波は顔が緩んでしまう。
メロメロなのは千波だけじゃなかったらしい。
「ちゃんとダメな事はダメって言った方いいですからね?犬ほど言う事は聞きませんけど」
「……うん」
でもしつけ役は孝明がしてくれるらしい。
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