ミューは探検を終えたのか胡坐をかいて孝明と向かい合わせに蕎麦を食べていた千波の足の間によじ登ってきてぽてんと丸くなると安心したように喉をごろごろさせながら目を閉じ前足をふみふみとしていた。
箸を置いて顔を撫でてやると顔をこすり付けてくる。
「ソレ、足ふみふみしてるの母猫に甘えてる証拠らしいですよ?」
「そうなのか?」
「千波さんがお母さんでしょうから」
「…お母さん…じゃ何か?孝明はお父さんか?」
ぷっと笑って軽く言ってしまってからはっとして千波は後悔した。
何を言ってるんだ!
内心密かに自分でうろたえながらちらりと孝明を見れば孝明も微妙な表情をしていた。
そしてはぁ、と溜息を吐き出している。
でもそれ以上何も突っ込んで言われなかったことに千波はほっとした。
バカな事言ってしまったと思いながらも、ミューが眠ってしまったので動く事も出来なくてそのまま無言で時間が過ぎる。
食べ終わった孝明は千波の隣に移動してきてミューを突いたりとちょっかいを出すけれどミューは眠ったままだ。
「…安心しきってますね」
「…そう…?」
うるさそうに耳をぴくぴくと動かしながらもミューは千波から離れる気はないらしい。
くるりと丸まって小さいくせにちゃんと猫だ。
…あたりまえだけど。
「あ、すみません。ちょっと」
孝明の携帯が鳴ったのに孝明が断ってそれに出た。
「ああ、終わった。…え?今?……ああ、あ、そう?…そうしてもらえるならかえって助かるけど…大丈夫なのか…?ああ、駅から真っ直ぐで…ああ。その辺だ。じゃあ近くなったら連絡…分かった」
車の相手かな…?
千波が孝明を伺うように見ると孝明は電話しながらも片手でミューの顔を撫でていた。
…コイツ…やっぱり猫大好きか?
「車貸してもらったヤツが取りに来てくれるらしい」
電話を置きながら孝明が説明する。
「わざわざ?」
「いや、たまたま時間が出来て近くまで来たらしいから」
くわっとミューが欠伸をすると千波の膝から降りてまた動き出し始めた。
寝たばかりだと思ったのに忙しい。
「…なんでこう寝てると起こしたくなるんですかね?」
自分が起こしてしまったと思ったのか孝明がばつが悪そうに言うのに千波はくすくすと笑った。
ぴょこぴょこと走り出すミューの姿のあまりにも可愛いのにも微笑ましい。
「千波さん。猫じゃらし出しても?」
「どうぞ?」
千波は食べ終わった皿を片付け、孝明は買ってきた猫グッズから猫じゃらしを取り出していた。
皿を洗っているとばたばたと追いかけっこの音が聞こえてくるのにまた千波は顔が緩んでしまう。
いつもはしんとした部屋なのに。一人と一匹が増えただけでなんでこんなに楽しく感じるのだろう?
「千波さん、首輪」
「あ…」
洗い物を終えて戻ると孝明がミューを掴まえ、そして買ってきた鈴のついた首輪を持っていた。
孝明に抱っこしてもらっていやいやと悶えるミューの首に首輪をつけると小さな鈴が音を立てた。
「これでどこにいるかわかるでしょう」
「うん…」
ミューがぽこぽこと歩くたびに小さく鈴が鳴っている。
なんかもうどれもこれも可愛い…。
「ほら来い」
孝明が猫じゃらしを手にミューを誘うように揺らすとミューがそれを追いかける。
それを見ながら千波はやっぱり笑みが浮かんでしまうのだ。
あんまり普段表情が変わらない孝明がずっとミューの相手して遊んでいるのが可愛い。
すっかりミューと孝明は仲良しみたいだ。
遊んでいるのを眺めているとまた孝明の携帯が鳴った。
猫じゃらしを孝明から渡され、孝明が電話に出る。
ミューはうずうずしているのか、千波の手に持っている猫じゃらしを見ながら小さい身体をむずむずと揺らしているのにまた千波は笑ってしまう。
「あ、ああそう…そのまま真っ直ぐ。俺もじゃあ車までいく。ああ。じゃ」
どうやら近くまで来たらしい。
「ミュー…部屋に一人でも大丈夫…だよな?」
電話を終えた孝明に聞いてみる。
「一応挨拶…。わざわざ車かしてもらって…」
「あ~~……大丈夫…かな…」
「???」
何が大丈夫?
千波が首を捻った。
そしてミューを部屋に残して孝明と外にでて車の所で一緒に待つ。
………あれ?
「タカ先輩っ!……と…あれ?千尋先輩のお兄さん…?」
「岳斗くん」
「…なんで兄貴が孝明と?」
現れたのは弟とそして一緒に暮らしてる岳斗くんで、え!?と千波は孝明を見上げると孝明も目を見開いて千波を見ていた。
「名前!似すぎてると思ってたら…千尋のお兄さん?」
知り合い!?
千波は孝明と弟達を見比べた。
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