ミューを床に降ろして千波もベッドから起き上がりあまり大きいとはいえないキッチンに向かう。
そしてミューの為のご飯を用意する。
買ってきた子猫用のウェットフードを皿に盛っていると足元でミューが千波の足にじゃれていた。
やっぱりどこにも孝明の姿はない。
……当たり前だけど。
お腹をすかせたミューがばくばくと勢いよく食べる姿に笑みを浮べて千波はじっとミューの様子を眺めていた。
半分位食べて満足したのか毛づくろいを始めるミューにまたくすっと笑ってしまう。
こんなに手のひらに乗るくらい小さいのにちゃんと猫なんだ。
すると今度はとたとたと部屋を歩き出してある一角に向かっていく。
…え?
もしや、と千波はそっとミューを追いかけるとミューはトイレに自分で入っていった。
…覗いてもいいのかな…?
ちゃんとしてるのかが気になって仕方ないけれど千波はじっとミューが出てくるのを待った。
するとぽんっとトイレから飛び出すようにミューが出てきて走って行ってしまう。
千波は思わずトイレの下のトレイを引っ張って確認すると下のシートがちょっと濡れていたのに感動してしまう。
だって教えてないのに自分から入ってちゃんとするってすごい!
孝明がミューは頭いいって言ってたけどほんとうらしい!と千波は一人で感動してた。
「ミュー!」
追いかけていってミューを抱き上げ、顔を撫でてやる。
「お前すごいな!頭いい!おりこうさんだ!」
ミューは目を細めて満足そうな顔。まるで得意になってるみたいで千波はおかしくなってしまう。
そこにがちゃがちゃと玄関のドアの方から音がしたのに思わずびくりと千波は身体を震わせた。
ミューが千波の手で暴れるのにミューを下に降ろすとミューが玄関の方へと走っていく。
「ミュー!」
誰か分からないのに!
びくつきながら千波は玄関を見た。
いや、孝明、なの、か…?
戻ってきた…?
ミャーとミューがないている。
「なんだ?ちゃんとご飯もらったか?」
…もう聞きなれた声。玄関を開けて入ってきたのはやっぱり孝明だった。
「千波さん、大丈夫ですか?」
大丈夫、って…お前がしたんだろうが!
…と言おうかと思ったら孝明が部屋に入ってきてテーブルに手に提げたビニールから惣菜を並べ始めた。
「な、…に…?」
「いえ、お腹すいたでしょう?千波さん寝てたし適当に買ってきました。ミューは大人しく寝てましたか?」
「…多分…顔のとこに…いた」
「ああ。ちゃんと千波さん見てたんだな。えらいな、お前」
孝明が屈んでミューの頭を撫でていた。
「あ!さっきミューがちゃんと自分でトイレ入っていってしてたんだ!」
「へぇ、やっぱ頭いいな。ね?猫しつけ簡単でしょう?」
「ああ!」
ふふん、と孝明が笑ったのに千波が頷く。
…そしてはっとした。
なに和やかに話してるんだ!?
「惣菜は適当に買ってきたんで文句言わないで下さい」
「………文句は言わない、けど……帰った…と、思…った…」
小さく千波が呟いた。
孝明が帰ったのではなく戻ってきたのに千波の中でどこはほっとしているのに気付いた。
「鍵、置かれてたので勝手に借りましたけど。まさか玄関開けっ放しでも行けないですし」
「ああ、…うん…」
それにも千波は小さく頷いた。
「さ、どうぞ?」
「あ、金払う!」
孝明はまだ学生なんだ!
「いいですよ、これ位。バイトもしてるし」
「でも…」
「……じゃあ今度何かご馳走して下さい。ああ、外じゃなくて千波さんが何か作ってください。いくらか料理するんでしょう?」
「…少しは…」
キッチンを見て分かったのだろう。確認するように孝明が言ったのに千波は小さく頷いた。ただ本当に簡単なものしか出来ないけれど。
「そんなにはしない、から…」
「別に、俺だってそんな凝ったのとかしませんよ」
孝明が千波の腕を引いて小さなテーブルの前に座らせた。
「…今度。それでいいです」
なにがいいのか…。
「こら。お前のごはんじゃないだろう!」
孝明の膝の上に上ってミューが興味津々でテーブルを覗き込んで鼻をふんふんとならしているのに孝明が注意していた。
やっぱり孝明がいるのに全然違和感がない。むしろ……。
昨日までは孝明もミューもいなかったのに…。
そしてそれに安心を覚えている自分は…一体…。
千波は考え込んだ。
「千波さん?どうぞ?」
「え、あ、ありがとう…」
孝明に促されるまま千波は箸をとっていた。
テーマ : 自作BL小説
ジャンル : 小説・文学