「つめてください」
有無を言わさず、布団ありますか?も聞かれず孝明が千波のベッドに上がってきた。
「ミュー、お前ももう少し場所移動」
心臓がうるさい…。
先週は何も考える間もなく、ただされた事で頭がいっぱいで一緒に寝るにそんなに意識していなかった。だってその前にされた事があまりにも強烈だったから。
それがまたされて…しかも帰ると言いかけた孝明を自分から掴まえるようにしてしまったことで千波は何も言えない。
千波は壁際に寄って身体を縮こませた。ミューも壁際。
孝明に背中を向けていると後ろから腕が回されたのに千波はびくんと身体を反応させた。
「………何もしませんよ」
耳に響くちょっとかすれたような孝明の声。いい声だと思う…。
「そ、そういえば!千尋とバンド…してた、って?」
「…ええ。してました。…高校の頃だって千尋は凄かった。…千波さん聴いた事あります?」
「……ライブやコンサートは未だに聴いた事ない」
「勿体無い…」
はぁ、と溜息を吐かれると千波の耳に息がかかってまたぎゅっと心臓が苦しくなる。
「孝明は…なにしてた、んだ?」
「え?何?」
「楽器」
「俺は歌だけです」
「……声いいもんな…」
「…そうですか?」
「ああ。…なんだ…残念だな…千尋が高校生の頃はもうこっち来てたから…全然知らなかった…聴いてみたかった…」
「……そんなに…声、いいですか?」
「ああ。授業の時の声もいいなぁ、と思って聞いてた」
「…………それはどうも」
今だって耳に響く声が心地いい。
千波の身体にまわされた腕。
これじゃまるで恋人のようではないか。
男同士で!…なんて今は千尋達を見てるから言わないけど。
でも別に孝明を好きというのでもないんだし、孝明だってそうだろうからそれはおかしい話だ。
じゃあ何?と問われれば答えようはない。
友達でもない。
恋人でもない。
知り合い、だけでもないだろう…。なにしろセックスまでして毎日顔を突き合わせてるんだから。
一度だけだったら過ちだ、と言いきってもいいのに、またしてしまった。
それに千波は自分でも求めるようになってしまっていたのが分かっている。
ミューの事で電話して、頼れるヤツだと見直して…。
声がよくて、一緒にいるのが嫌じゃなくて。
今みたいにされているのも嫌ではないんだ。
……実は誰にでもこんな事されても平気なのだろうか?
今までこんな事された事もした事もなかったから知らなかっただけで、本当は誰とでも出来るのだろうか…?
セックスも…。
誰とでも出来る、のか…?
孝明相手に淫乱のように自分から腰振るような…?
誰ともキスでさえした事もなかったから知らなかっただけで実は自分はそんなヤツだったのだろうか…?
だからといって他の誰かで試そうか、なんて思いもしないけど。
孝明はどうして…?
聞いてみてもいいのだろうか…?
いや、他にセックスする女がいるようなことを言ってたじゃないか。
彼女はいないとは言っていたけれど、そういう事する女はいる、みたいな…。
ズキンと胸が苦しくなったのに千波はえ?と自分で胸を押さえた。
「千波さん?どうしました?苦しい?」
「え?あ、…いや、なんでもない…」
千波がぎゅっと心臓を押さえたのに孝明がすぐに気付いた。
まさか…好き…?なのか…?
だって男だぞ?
無理やりといっていい位のセックスを先週はされたんだぞ?
さすがに今日のは無理やり…とは言い切れない感じがするけど…。
じゃあ何か?やっぱり千波は自分が待ってたという事なのか?
されるのを…?
セックスの後に目覚めた時に孝明がいなかったのに虚脱感を覚えたのも、帰るという孝明を引き止めるようにしたのも…?
いつから…?
ミューの事で電話したのも、電話をする相手は孝明しか浮かばなかったんだ。
買い物に付き合ってくれると言ってくれたのにほっとして…。
家に招き入れてミューと孝明がそこにいるのにほっとして。
かぁっと千波は今更ながら恥ずかしくなってきた。
すでにもうセックスしてるし…。
あ、でも別に孝明は千波の事を好きなわけでもなんでもないんだから。
…彼女もいないといった。でも今こうしてここにいてまるで恋人のように千波を抱きしめている。
そっと千波は自分の身体に回されている孝明の腕に触れてみた。
自分から意識して孝明に触れたのは初めてだった。
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