はのんのBL部屋

　孝明が終わったので自分の鍵を渡して先に千波のアパートに帰ってもらうことにする。
　着いたらメールしますと言ってたのでつい千波は携帯ばかり気にしてしまう。
　もうそろそろだろうかと時計をちらちらと確認していると、ヴ…と携帯が震えたのに千波はすぐに携帯を取り出した。
　ミューの写メと一緒に着きました、とメールが来て、思わず笑みが出て、そして一安心した。

　大丈夫みたいだ。
　よかった！
　さっさとしなくてはいけない仕事を終わらせて帰る事にしよう！
　プリントや学校行事の事やらなにかと雑事が多いのだ。
　運動部の部活の顧問でないのが救いだけど。
　
　千波はさっさと今日中にしなくちゃいけない事を終わらせ、早く帰らないと、思いながら学校を出た。
　ちょうど運動部の子達も部活を終えた所らしくさようなら、と千波の姿を見て挨拶してくるのに答えながら千波は校庭を横切っていく。
　「篠崎先生！」
　「ああ、部活終わり？」
　「はい！」
　「気をつけて帰るんだよ」
　いつも質問に来る生徒だ。千波はそう注意したけれど、中学生ですでに千波より身長が高いし身体もがっしりしている。
　県でも期待の選手で優秀選手に選ばれるような子だった。身体は大きくてもまだ中学生で反応が素直だと微笑ましくなる。
　「さようなら！」
　「はい、さようなら」
　いそいそと千波は帰り道を急ぐ。
　
　電車を待っている時に孝明に今電車待ちであと帰る、とメールを入れ、電車に飛び乗った。
　帰るのがこんなに楽しみなのが始めてだ。
　帰ればミューと、…孝明がいる、んだ。
　誰かがいる自分の部屋に帰るなんて初めてで心が浮き足立っている。
　落ち着け、と千波は電車に揺られながら自分に言い聞かせた。
　孝明にミューがじゃれついている姿が目に浮かぶ。膝で眠っている所も。
　孝明の目がミューを見る時に優しくなる。

　ほんの一日という短い時間だけ一緒にいただけなのにどれもが千波の脳裏に焼きついているんだ。
　ふっと電車の窓に映った自分の顔がしまりないものになっていて眼鏡に手をかけながら慌てて口を引き結ぶ。
　どっちに顔が緩んでるんだ？
　ミューに？
　孝明に？
　…いや、きっとどっちにも、だ。
　考えるのがミューと孝明の事ばかりなのに自分でも呆れてしまう。
　………やっぱり、好き、なのだろうか…？

　まだなんとなく認めたくないような気もしてしまうけど…。
　むりやりヤラれた相手を好きになるか…？
　いや、元々孝明に対しては好印象だったんだ。
　一緒の部屋にいて苦じゃなかったし、会話も態度も今まで千波の知り合いの中では断トツに孝明は付き合いやすい。
　余計な事も言わないし、気にならないし。
　そして迷惑をかけたのは自分の方だ。
　よっぱらかって吐いて意識なくして…。

　………今更ながらアレは千波にあるまじき失態だったと思う。
　だから孝明に対して強い態度が出来ないんだ！
　言い訳するように心の中で叫ぶけど、そんな事考える事自体がおかしいとも思う。
　だって孝明はそれこそオンナに苦労しなさそうだ。
　それなのにわざわざ千波に手を出すか？
　でも土曜日もまたされて…。
　孝明の手と体温を思い出してかっと顔が熱くなった。

　やっぱり……嫌じゃないらしい。
　なんで男なのに…。
　男にされるのが好きだったのか…？だからオンナと付き合ってもうまくいかなかったのだろうか？
　また変な方向に考えが行くのに千波は頭を振った。
　今はそれを考えるな。
　考えたら孝明と顔を突き合わせるのがなんとなく怖くなる。
　意識しすぎたらおかしくなりそうだ。

　いつまでも同じ事でクルクル考えても仕方ない事。
　孝明はただ単にセックスしたかっただけだろう、きっと。
　間近にいたのが千波だったから。きっとそれだけだ。
　彼女も今はいないと言ってたし溜まってたのだろう。
　…きっとそれだけ。
　孝明も千尋達の事を知っていたし、男とというのに抵抗がなかったのかもしれない。
　…年上で岳斗くんみたいにカワイイとも言えない自分相手に？という気もしないでもないが。
　衣服を脱ぐこともなくするくらいだからそんなものだ。
　
　そんな事を考えているうちに電車が駅に着いて千波は自分を取り繕って電車を降りた。
　そういえば何か食べさせて下さい、と言ってた。
　何かあっただろうか？
　……ちょっとスーパーに寄っていこう。
　千波は帰り道途中のスーパーに寄ってささっと食材を買い物カゴに突っ込み、会計を済ませると急ぎ足で自分のアパートに帰った。
　
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テーマ : 自作BL小説
ジャンル : 小説・文学