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熱視線 無伴奏~ア・カペラ~1

 「明羅、起きられる?」
 「う~ん…?大丈夫…かな」
 怜に声をかけられてのろのろと明羅が目を開けた。
 「…今日さ、お前出かけられるか?」
 「え?」
 「さすがに一日は辛いだろうからな…。昼飯までかな。であとは夜の分の食材買って帰ってくる」
 「う…ん…。多分大丈夫だと思うけど?」
 怜さんと一緒なら気を張らなくてもいいし大丈夫だろう。
 「少しだけな。お前ひどいだろうけど…」
 「ううん」
 怜がじっと明羅を見ていた。
 「お前ダッフルコート持ってたな?」
 「うん」
 「よし。…朝飯出来るまで寝てろ」
 怜はにかっと八重歯を覗かせて笑って起き上がった。
 真っ裸だったのにささっとボクサーパンツにジーンズ履いてTシャツ着て、上にパーカーを羽織り、あっという間に身支度を終える。
 明羅は身体がだるいのでそのままぐだぐだとベッドから起きない。

 出かけるってどこにだろう?
 「…怜さん元気だ」
 明羅はこんなにだるだるなのに。怜だって昨日ステージだったのに。
 怜に呼ばれて明羅もやっと起きだして身体がみしみししながらも着替えを済ませダイニングに向かった。
 「………やっぱ、無理か?」
 「ううん、少しすれば大丈夫…」
 多分。
 「…ちょっとだけ、な」
 それでも怜は出かけたいらしい。いつもだったら明羅がこんな状態だったら出かけるなんて絶対言わないはずだ。
 やっぱり何かあるのだろう。
 「いいよ。怜さんに掴まって歩いていい?」
 「ああ。そうしろ」
 怜が肯定したのに明羅がかえって驚いた。
 「さっき思ったけどお前髪長くなってるだろ?それにダッフル着りゃ女に見えなくもないだろうから。傍目には分からないだろ」
 明羅は襟足よりも伸びた髪を触った。
 「そうだね。全然切りに行ってなかった」
 「だろ?女のように、なんて嫌だろうけど」
 「…ううん。怜さんに似合ってないって言われるよりまし、かな」
 「ばか。んなわけないだろ。ほら、食え」
 「……いただきます」
 昨日だってステージもあったのに帰って来て、その後にご飯用意してくれて…。
 自分も出来ればいいのに。
 やっぱり覚えよう。
 「ねぇ、俺も覚える、から…」
 「あ?何を?」
 「料理…少し位。…朝位なら」
 「無理だろ。だって朝お前は起きられる事が少ないから」
 「それはっ…怜さん、が…」
 「そ。俺が可愛がっちゃうから~。だから別にいいよ。気にするなって言ってるだろ」 
 「でもっ!」
 「じゃ、動ける日な」
 「…うん」
 明羅はこくりと頷いた。
 怜はこうやって我儘を聞いてくれるんだ。
 

 「どこ行くの?」
 「ん~…まだどことは決めてない」
 車に乗って怜に聞いてみた。
 ダッフルコートにジーンズ。鏡に自分を写して見れば、髪は長めで確かに前に怜に言われたようにユニセックスに見えてきた。
 「ちょっと複雑…」
 「あ?ああ、見た目か?今日は丁度いいだろ」
 それは確かに。やっぱり身体は重くてシートに沈みそうになってくるのだ。
 「駐車場入れられるかなぁ…」
 怜さんが呟いた。
 ん?
 ……あ!今日クリスマスイブだ!
 明羅はじっと伺う様に怜を見たが怜は前を向いたままだった。


 デパートの駐車場はさほど待ち時間なくなんなく入れられた。公共機関使っている人が多いのだろう。
 車を降りると怜が明羅の身体を引き寄せた。
 「掴まってろ」
 「掴まるっ」
 怜さんの腕に体重を預けるように掴まっても怜さんはびくともしなくてまたそれがちょっと悔しい。
 店内に入ればクリスマスソングが流れ、店のディスプレイもクリスマス一色。
 周りもカップルか家族連ればかりだ。
 これ、もしかしなくてもデート?
 明羅はぐっと怜の腕に力を入れた。
 間違いなく怜の腕に掴まっていれば自分達もそう見えてしまうだろう。
 かぁっと顔が熱くなってきた。
 「ん?」
 にやっと怜が笑って明羅の顔を覗きこんだ。
 「分かった?」
 「………ん」
 怜が明羅の頭をぐりぐりと撫でた。
 「さ、どこがいっかなぁ」
 「?」
 ゆっくり怜が歩いて店を眺めて歩く。
 何か探してるのかな?
 明羅は周りの人たちがちらちらと見てくるのに気付いた。
 「怜さん」
 小さく呼んで袖を引っ張った。
 「ん?」
 「…なんか見られてる?」
 「ああ。…気のせい、気のせい」
 「は?」
 「あ、ここ、入ってみようぜ」
 怜が明羅の身体を引っ張って店のテナントの一つに入った。
 
 

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