そのまま抱き上げられると風呂場に連れて行かれる。
「この間は千波さん意識飛ばしてたから勝手に棚からバスタオル出して使いましたけど」
「…別に構わない…ちょっ!な、にするっ!」
千波をたたせて孝明がまたも後ろに指を這わせてきたのに千波はぎょっとする。
「何、って中に出してしまったので…かきださないと…すみません、ゴムつける余裕もなくて」
前回は意識を飛ばしてしまって目が覚めた時はベッドの中だったし身体もそういえばすっきりしていたのだった。
恥ずかしいが、それを自分でする!とも言えなくて顔を歪めながら孝明の肩に顔を埋めて恥かしさをやり過ごす。
孝明はその千波の耳にキスを繰り返しながら後ろを探っていた。
とろりと中から流れ出て行くのを感じ千波はふるっと身体を揺らす。
「……恥ずかしがるところは可愛いですけど」
誰が!?
声を出したくてももう恥かしくてソレどこじゃない。
シャワーで流され、拭かれ、いたたまれなくて千波は全身真っ赤だ。
「……このまま寝ますか?」
「裸で!?」
「ええ。俺着替えないですし。今度はちゃんと持参してきます」
「そ、そういう…」
「いいでしょ?」
「…た、かあきは…いい、けど…俺は…」
「俺一人でマッパ?…なんかそれはそれで卑猥な感じですねぇ」
結局いい、も悪いも答えられずにいると強引に孝明が千波を抱き上げてベッドまで運んだ。
素肌でベッドに寝るのは初めてだ。
みゃうといつの間にかちゃんとベッドの下にミューがやってきた。
寝る時間って分かっているのだろうか?
孝明がミューを抱き上げ壁際に小さな身体を下ろした。
「はい、お前は千波さんの隣にいろ。間には入ってくるなよ」
「………猫って夜行性じゃないのか?」
孝明の言葉は聞かなかった事にして尋ねてみる。
「夜行性でしょう。でも飼い猫は飼い主とおなじようなサイクルにもなるらしいですよ。とはいっても日中も寝てる事多いですけどね」
ミューは子猫だからか、けっこう起きてぱたぱたと一人運動会とかしてるのが多いかな、とは勝手に思っていたがそんなものなのか?
ミューがもぞもぞと位置を決めて丸まるのにふふと笑みが浮かんでしまう。
「向こうの電気消してきますね」
「あ、……う、ん…」
かけ布団を千波の身体にかけ、孝明は腰にタオルを巻いたままで戸締りの確認に行く。
千波は布団に隠れるように潜り込んだ。
素肌にベッド、が落ち着かない気もするが、気持ちイイ。
孝明が来るだろうからと千波は身体を壁際に寄せる。
……今日は寂しくはない…。
ミューがいて孝明がいる…。
本当に自分は一体どうしたいのだろうか?
孝明の存在は自分にとってなんなのか。
今だって自分の部屋なのにすっかり孝明に戸締りもまかせっきりにして、自分はのうのうとベッドに裸で横たわっているんだ。
やだやだ言って、そのくせ全部委ねて、縋って、抱かれて…。
「変…」
小さく呟いたって何が変わるわけじゃない。
ただいまといって帰ってくる部屋。待っているミューと孝明。
眠るときに隣にある存在。
それが嬉しいと思えるんだから。
「…好き、なんだ…」
小さく小さく布団の中で囁いた。
「千波さん、OKで、す……どうしました?」
「え?」
「顔、真っ赤ですけど?」
「な、なんでも、ないっ」
馬鹿な事を口にした。
「そう…?」
孝明の身体が隣に滑り込んできたのに千波はぎゅっと目を瞑った。
「あ、なに…」
孝明の腕が千波の身体に巻きついてきたのに、こくりと息を飲み込んだ。そして心臓がどきりと跳ね上がる。
「何、って狭いですから」
「あ、ああ…」
動揺して何を言っていいか分からなくなってしまう。
「ええと!その…千尋とは同じ高校?」
「…そうです」
「…地元一緒、なんだな…。離れたこんな場所でまさか…」
「一番初めに名前似ていると思ったんですよ。でもまさか、と俺だって思ってました。本当に兄弟だったのには驚きましたけど」
「うん…」
孝明の声が静かに耳に響くのと肌の重なった部分から温かな熱を感じ、千波は安心して意識がふわりとしてきた。
気持ちいい…。
快感とかの気持ちイイじゃなくて、幸せというか、精神的にというか、とにかく気持ちいいと思えた。
「本当、名前の通りに海みたいな人ですね…」
「うん?」
「穏やか時もあれば厳しい、怖い時もあって…色々な表情がある…」
「僕が…?」
声がとろりと眠気を孕んでたどたどしくなっている。
「ええ。そうです。…千波さん眠いのでしょう?…おやすみなさい」
「…ん…おやすみ」
孝明のおやすみなさいのキスを沈みかけた意識の中で感じた。
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