はのんのBL部屋

　教育実習最終日。
　もう今日で孝明は学校に来る事はないんだ。
　3週間ほとんど一緒にいたのに…。
　学校だけじゃない、プライヴェートでも顔を見なかった日はないんだ。
　さらに今週なんて…。
　
　昼休みの職員室で千波は顔が熱くなってきそうになって慌てて顔を俯けた。
　昨日も一昨日も孝明は千波の部屋に泊まって朝に自分のアパートに帰っていったんだ。
　「おや…？」
　千波の後ろを通りかかった佐藤先生がふふ、と笑いを漏らしながら声を出した。

　「篠崎先生…」
　座っていた千波の後ろから覆いかぶさるようにして佐藤先生が千波の耳に顔を近づけてきた。
　「なんですか？」
　馴れ馴れしい、と思わず千波は仏頂面になりながら佐藤先生を見たら、目が弓なりに笑っているようなのに怪訝に思った。
　「項にキスマークついてますよ？篠崎先生の彼女は熱烈なんですねぇ」
　「っ！！！」

　小声で囁かれると慌てて千波は項を押さえた。
　「下向かなきゃ襟に隠れて見えないですから大丈夫ですよ～！いやぁ～いいなぁ…若いって！」
　ぷぷぷと笑って佐藤先生が通り過ぎる。
　キスマーク！
　しかも人に見られた、なんて！
　かっと耳まで熱くなってくる。

　「…篠崎先生、ちょっといいですか？」
　孝明の声にはっと顔を上げると眉間に皺を寄せて難しい顔ですぐ傍に孝明が立っていた。
　「何か問題でも？」
　小出さんは千波の攻撃を喰らってから相変わらず授業は散々らしいが、すっかり大人しくなっていたのだが。
　「隣の指導室お借りします」
　千波は孝明と隣の生徒指導室に入ると、カチャリと孝明が後ろ手に鍵を閉めるのに千波はぎょっとした。
　「鍵！なんで？」

　「……さっきの、なんですか？」
　「さっきの？何が？」
　千波の目の前に孝明が立ちふさがり、睨むようにして聞いて来たのに何の事だ？と千波が首を傾げた。
　「佐藤先生です。そういえば一番初めの酔っ払ってたのも佐藤先生と一緒だったと言ってましたね…？」
　「ああ、一緒だったけど？愚痴聞かされて散々だった！さっきのはコレ！」
　千波はくるりと孝明に背を向け、衿を後ろに引っ張り、顔を俯けた。
　「………え…あ？ああ…」
　「…熱烈な彼女だ、ってバカにされただけだけど、それが？」
　「……それだけ？」
　「それ以外に何が？」

　くるりと千波が体の向きを戻し、孝明の正面を向いたら孝明が珍しく顔を赤くして口元を押さえていた。
　「孝明？」
　「いえ…なんでも…」
　孝明が動揺している姿が珍しくて千波は思わず見入ってしまう。
　なんで？と考えてもしや、孝明は嫉妬したのか？と思い当たったがまさか、とすぐに打ち消した。
　「…なんだ…俺のつけたキスマークみられただけか…」
　今度はくすくすと笑い出した。

　「恥ずかしいんだけど！」
　「そうですか…？もっと本当はつけたいのに…」
　「…話がそれだけなら戻るぞ」
　千波はペン、と孝明の額を軽く叩いた。まったく、学校で何を言い出すのか！
　でも孝明が動揺を見せたのに思わず千波は嬉しくなっているんだ。
　「…今日で実習最後なんだから…」
　「……そうですね」
　嬉しい気持ちなんて押し隠し、なんでもないように千波が言うと孝明は不満そうな表情をする。

　「…千波さんは一筋縄ではいきませんね」
　「何が？」
　千波が孝明を押しのけ、かちゃりと鍵を外す。
　「だって俺が千波さんのアパートから帰ろうとすると寂しいって顔をするし、真っ赤になったり、慌てたりと色々可愛い事するのに今なんか何事もないような平然とした態度だし」
　千波の後ろから耳元に顔を近付けて囁く。
　今だって全然平気なんかじゃない。
　そう見せているだけだ。

　…自分だけが孝明を好きで動揺して、心臓が落ち着かないのが面白くないから。
　でももしかしたら違う、のだろうか？
　さっきの孝明の態度は…。
　千波はくるりと振り向き孝明をじっと見上げた。
　「千波さん、今日はビール買って行きますね？実習無事終了ですから」
　「…まだ終わってない」
　そう言いながら千波は自分の鍵をポケットから出して孝明に渡す。

　「酔っ払ってもちゃんと責任持って俺が介抱しますから」
　「あんなコトにはもうならない」
　あれは本当に自分にはありえない事だったのだ！
　「…俺の前ではどんな姿だっていいですから。…でもさっきみたいな可愛い顔は他の人の前ではいけません」
　「は？」
　「人前で真っ赤になって…驚きましたよ。俺が原因なら仕方ありませんけど」
　千波はどん、と孝明の腹に肘を衝き、何食わぬ顔でドアを開けた。
　
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続きに拍手コメお返事です^^
　

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